@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00010684, author = {尾谷, 浩}, month = {Mar}, note = {本論文は,ナシ黒斑病菌の分泌する宿主特異的毒素(AK-毒素)の感染成立における役割とその作用機構について論じたものである。以下にその概要を述べる。 (1)ナシ黒斑病菌のナシ葉における行動を観察すると,感受性品種では胞子接種後6~9時間目頃から表皮細胞への菌の侵入が認められ,その後葉肉組織へと菌は進展した。また,18時間目頃からは肉眼的小病斑が出現した。一方,抵抗性品種では表皮細胞への菌の侵入は少く,また組織内への進展も観察されず,菌侵入の抑制現象が認められた(第2章第1節)。 (2)ナシ葉に軽い温湯処理(50℃で10秒以上)を行なうと,黒斑病菌は病原性の有無に関係なく,また感受性,抵抗性品種はもとより非宿主にも侵入が誘発され,病斑を形成した(第2章第2節)。 (3)感受性ナシ葉に予め非病原菌の胞子接種や発芽液処理を行なうと,その後の黒斑病菌による感染行動は抑制された。また,黒斑病菌の発芽液でも同様の効果が認められた(第2章第3節)。 (4)以上の観察結果から,菌側は病原性の有無に関係なく胞子発芽時に宿主の抵抗反応の誘導物質を分泌すること,一方,植物側では菌の抵抗反応誘導物質によって何らかの抵抗反応系が確立すること,さらに,黒斑病菌に対する抵抗反応は,感受性品種には発現しないことなどが示唆される。 (5)AK-毒素は黒斑病菌の休眠胞子中には検出されなかったが,胞子の発芽とともに徐々に生合成され放出された(第3章第1節)。 (6)感受性ナシ葉では,胞子接種後2時間目頃から発芽胞子のAK-毒素による電解質の多量漏出が観察された。多量漏出はその後一時停滞し,菌の侵入後に再び急激な増大を示した(第3章第2節)。 (7)病原性失活菌にAK-毒素を加えて接種すると,感受性ナシ組織への菌の感染が誘発された。逆に,黒斑病菌の胞子発芽時のAK-毒素分泌を阻害すると,宿主組織への感染頻度は著しく抑制された(第3章第3節)。 (8)非病原菌の胞子発芽液を予め処理した感受性品種では,黒斑病菌の感染が抑制されたが,AK-毒素に対する反応性の低下は認められなかった(第3章第4節)。 (9)以上の結果から,ナシ黒斑病における感染成立の可否は,発芽胞子の分泌するAK-毒素にによって決定され,AK-毒素は感受性品種のみにわずかな生理障害を引き起し,それが宿主の抵抗反応系の始動を停止し,病原菌受容への活性化に導くものと考えられる。 (10)AK-毒素は,感受性品種には0.01$\mu$g/mlの低濃度まで毒性を発揮したが,抵抗性品種や非宿主には1000$\mu$g/mlでもまったく活性を示さなかった。また,ナシ品種間におけるAK-毒素反応性は,黒斑病感受性と完全に一致した(第4章第1節および第2節)。 (11)感受性ナシ組織におけるAK-毒素反応性を調べると,壊死斑の形成,電解質多量漏出,原形質分離能の失活,原形質流動の停止,気孔開閉能の失活,さらに花粉発芽の抑制などが観察され,すべての組織,器官がAK-毒素反応性を示した(第4章第3節)。 (12)原形質分離下の遊離細胞やプロトプラストでも,AK-毒素に対する特異性を保持していたが,その反応性は著しく遅延低下することが認められた(第4章第4節)。 (13)AK-毒素による電解質多量漏出は,宿主のAK-毒素反応性の中では最も早く顕著に認められ,その漏出量もAK-毒素処理後急激に増大した。また,電解質漏出に対するAK-毒素作用はまったく温度依存性を示さなかった(第5章第1節)。 (14)AK-毒素による電解質多量漏出を分析すると,その主成分は$K^+$で,$K^+$の漏出はAK-毒素処理後すみやかに,しかも直線的に増大した。また無機りん酸やアミノ酸においてもAK-毒素による初期漏出が観察された。なお,$Na^+$,$Mg^2+$,$Ca^2+$などのカチオンの多量漏出はまったく認められなかった(第5章第2節)。 (15)AK-毒素による$K^+$多量漏出は,NaCl,$MgCl_2$,$CaCl_2$を添加するとさらに著しく増大した。また、$K^+$漏出の増大現象は,無機イオンの添加時にのみ認められ,無機イオンを除去するとその効果は容易に消失した。さらに,無機イオン添加時にはカチオンの組織内取り込みも観察された。なお、AK-毒素は,宿主のカチオン依存性ATPase活性にはまったく効果を示さなかった(第5章第3節)。 (16)ナシ葉に軽い熱処理(例えば55℃で2秒の温湯処理)を行なうと,感受性品種に対するAK-毒素作用は著しく抑制された。この熱処理の効果は一時的で,28℃下では12時間以内に元の感受性に復帰した。また,浸透圧ショックを与えた感受性ナシ葉でも,AK-毒素反応性の低下が認められた(第5章第4節)。 (17)感受性ナシ品種では,S-S結合還元剤処理によってAK-毒素による電解質多量漏出はある程度遅延保護された。また,植物ホルモンのABA処理では抑制効果が,IAA処理では促進効果がそれぞれに認められた。一方,プロトプラストに蛋白分解酵素処理を行なうと,感受性品種のプロトプラストのAK-毒素反応性は,さらに著しく低下した(第5章第4節)。 (18)ナシ組織には,AK-毒素の特異的不活化能の存在は認められなかった。一方,ナシ組織におけるAK-毒素結合物質の検索を試みたが,特異的結合物質の存在は見い出せなかった(第5章第5節)。 (19)以上の結果から,AK-毒素は感受性ナシ品種にのみ顕著な活性を発揮するが,宿主における特異性発現に関与する因子は,抵抗性品種側ではなく,感受性品種側に存在すること,この特異性発現には,宿主の何らかの蛋白が関与すること,さらに,AK-毒素の作用点は宿主原形質膜にあり,その透過調節機能を完全に失活させることなどが示唆される。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:農学博士(論文) 学位授与年月日:昭和55年3月3日}, school = {名古屋大学, NAGOYA University}, title = {ナシ黒斑病の宿主特異性発現機構に関する研究,とくに宿主特異的毒素の役割とその作用機構について}, year = {1980} }