@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00005909, author = {小島, 一晃 and Kojima, Kazuaki}, month = {Mar}, note = {類似性に基づく推論は,人間の強力な問題解決方略の1つである.我々は新奇な問題に遭遇した時,自分自身が過去に経験した問題や既存の例といった「事例」から似たものを参照し,それを問題解決に利用することが多い.そのため,様々な課題を用いて,人間の類似性判断や問題解決における思考メカニズムを理解する認知心理学的研究や,類似性に基づく推論を要素技術として問題解決や問題解決支援を行う計算機システムを構築する知識工学的研究が展開されてきた. 類似性に基づく推論においては,現在直面している問題と類似する過去の事例を利用することから,類似性の判断が問題解決における重要なキーとなる.類似性は,問題と事例との間の同一の要素(共通点),および,異なる要素(差異)に基づいて評価される.一般に,現在の問題と完全に一致する過去の事例が利用できることは稀であるため,通常は問題と事例との差異に基づき,事例を修正する必要がある. しかし,差異は単に埋められなければならないだけのものではなく,差異に積極的な意味が生じる場合も存在する.その一例が,数学学習における問題解決である.数学学習には,教示された問題(例題)に基づいて別の問題(類題)を解く類題解決や,学習者自身が新しい問題を作り出す作問といった問題解決がある.数学における作問については,問題を作ることは問題を解くことと同様に重要な活動であることが,数学者や数学教育者によって指摘されている.学習においては,似たような問題を繰り返し解くことや作ること自体に意義はない.学習者には,学習した例題を適用して差異を持つ類題を解けるようになること,および,既知の問題に差異を与えて多様な問題を作れるようになることが求められるが,学習者にとってそれらのことは困難である.そのため,数学学習における問題解決を支援するためには,共通点と差異という2つの側面に基づいて類似性を扱うための枠組みを考案することが,支援の実現のための重要な課題になる. 上述の動機に従い,本論文では,数学学習における類題解決と作問を対象とし,類似性に基づく推論を用いて知的問題解決支援システムを構築した.ここでは特に,共通点と差異という類似性の2つの側面に注目し,知的支援の検討と実現を行った. 具体的には,人間の類似性に基づく推論の解明に取り組んできた認知心理学の類推研究の知見に基づき,数学学習における困難さを克服するための支援方法を検討することで,システムの設計要件を得た.そして,人工知能の要素技術であるCBR(Case-Based Reasoning: 事例に基づく推論)のモデルに則り,システムを実装した.本論文の構成は,以下の通りである. 第1章「序論」では,認知心理学における類推研究の知見に基づき,数学学習の問題解決において,学習者が示す困難さの原因,および,学習者を支援する方法を検討した.類推研究では,人間の問題解決は,問題が持つ数学的構造(解法)だけでなく,問題文に言い表される文脈設定のような情報(状況)に強く影響されることが示唆されている.また,学習者に状況と解法の類似性を統制して問題を与え,それらの間の比較を行わせることで,学習者が問題解決において重要な情報に注目することを促し,学習者の問題解決を成功に導くことが示されている.そこで,これらの知見に基づき,支援システムを実現するための2つの設計要件を導出した.具体的には,1) 学習者に対し,状況と解法の2つの属性における類似性を統制して,類題の事例を提示する機能,2) 学習者に比較を行わせるために,多数の,かつ,多様な事例を供給する機能を実現しなければならないというものである. 第2章「事例検索システム」では,類題解決学習を支援するシステムを試作した.本システムの試作にあたっては,設計要件1に従い,類題提示手法を設計した.この手法には,1-a) 状況と解法の特徴を区別して理解するための問題表現である「3層リスト形式」,ならびに,1-b) 状況と解法を統制して類題提示の決定基準を変化させる手法である「ランク」の2つが含まれる.第2章で試作したシステムは,これらを実装することで,学習者ユーザが学習した例題に対し,様々な差異を持つ類題を検索して提示することが可能である.そして,本システムの類題提示の妥当性を検証するために,数学教師の類題判断との比較を行う実験的評価を実施した. その結果,本システムの類題提示手法は概ね妥当であること,すなわち,状況と解法を統制して類題を提示するという方法が有効であることを確認した. 第3章「事例自動生成システム」では,類題解決学習で使用する文章題を自動的に生成するシステムを実現した.本システムの実現にあたっては,設計要件2に従い,状況と解法の2つの属性において構造化された問題データベースを生産する手法を提案した.文章題を扱う上で生じる常識知識や自然言語処理に関する問題については,1) システムは作問エピソードを作成して使用することで問題を生成する,2) システムは教師ユーザとのインタラクションを行う,という方法によって克服,あるいは回避するアプローチを採用した.作問エピソードとは,例題に対し,その類題が生成された時,この2つの問題の間で結ぶことができる関係を事例化した知識である.本システムは,システムに登録された問題から作問エピソードを形成し,それを他の問題に適用して新しい問題を生成することで,問題の多様性を増やす.そして,本システムの実験的評価により,システムが実際に問題の多様性を増やすことが可能であることが確認されたものの,そのためには充分な数学能力を持つ教師ユーザが必要であることが判明した. 第4章「事例作成支援システム」では,作問学習において,学習者が多様な作問を行うように支援する方法を検討し,その結果に基づいて,学習者ユーザの発散的思考を促進するシステムの実現を行った.ここでは,作問の創造的生成課題としての側面に注目し,そのような課題を支援する主要な方法である,事例提示を採用した.具体的な事例提示の方法には,類題解決学習支援を実現するための設計要件を応用し,状況と解法を統制することを提案した.そして,実験的調査により,そのような事例提示が,人間の作問における発散的思考の促進に利用できることを確認した. この結果に従い,事例提示によって学習者ユーザの作問を支援するシステムを実現した.システムの事例提示機能は,第2章で設計した類題提示の手法,および,第3章で実現したシステムによって生産された問題データベースを使用して実装された.そして,本システムの実験的評価により,システムは学習者ユーザの作問を多様にする支援効果を持つことが確認されたものの,そのためには,適切な事例提示が必要であることが判明し た.第4章では同時に,本システムの実装に使用した類題提示手法と問題データベースの応用例が示されたとともに,その有効性が確認された. 第5章「結論」では,本論文の総括を行うとともに,本論文における一連の研究による成果を明らかにした.さらに,今後の研究展開について論じた., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(学術) (課程) 学位授与年月日:平成19年3月23日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {類似性に基づく推論を用いた知的問題解決支援の検討と実現}, year = {2007} }