@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00006801, author = {王, 昀 and WANG, YUN}, month = {Mar}, note = {機械構造物の破損原因の80%以上は疲労であるとされており,構造物の設計および保全管理において疲労という観点からの検討が不可欠である.また,金属材料の疲労破壊では,き裂の発生過程が疲労寿命の大部分を占めるため,疲労の初期損傷についての研究が重要である.疲労き裂の発生はすべり運動や塑性変形に直接なつながりがあるとされる.実構造部材に多用されている多結晶金属材料の塑性変形および疲労損傷挙動は,個々の結晶粒に生じる不均一変形のため複雑である.疲労き裂発生の微視機構やメカニズムの解明にはナノメートル・スケールの超高精度な考察手法が要求されているため,き裂の発生過程に関して有効な連続的,直接的かつ定量的な新しい工学的研究手法の開発が期待されていた.そこで本研究は,実構造物の構造信頼性を保障するため,微視的塑性変形の定量的評価法の確立および疲労き裂発生の微視機構の解明を研究目的としている.原子力機器等に使用されているエネルギー材料であるオーステナイト系ステンレス鋼SUS316NGを研究対象とし,引張静的負荷,ねじり単独疲労および引張圧縮単独疲労において,走査型電子顕微鏡 (SEM: scanning electron microscope),電子線後方散乱回折(EBSD: electron backscatter diffraction),原子間力顕微鏡(AFM:atomic force microscope),集束イオンビーム(FIB:focused ion beam)およびX線回折 (X-ray micro beam diffraction)の混合アプローチを用い,塑性変形および初期疲労損傷の微視的考察および解析を行った.本研究は全7章で構成され,第1章の緒論および第7章の結論のほかは,大別すると2部に分けられる.第1部は第2章と第3章であり,多結晶金属材料の塑性変形について微視的解析を行った.EBSD法で得られた微視的塑性変形を表すパラメータと塑性ひずみとの関係を明らかにするとともに,X線回折法で得られた全方位差との相関を検討した.さらに,多結晶金属のすべり方向の特徴を解明し,すべり挙動の幾何関係を表すパラメータを提案した.第2部は第4章から第6章であり,多結晶金属材料の初期疲労損傷について微視的解析を行った.EBSD法およびAFM法の複合アプローチを用い,一定の相当ひずみ振幅におけるねじり単独疲労および引張圧縮単独疲労下での活動すべり系の分布,疲労き裂の分類およびその分布を統計的に検討した.また,すべり帯き裂の発生条件を明らかにし,疲労き裂発生の定量的評価を行った.最後に,各分類き裂の異なった発生メカニズムに対し,き裂の発生を支配する力学パラメータを提案し,その有効性を検討した.以下に各章の内容を示す.第2章では,EBSD 法およびX 線回折法を使用して,結晶のミスオリエンテーションの測定を行い,その分布および平均的挙動と塑性変形量の関係を検討した.EBSD 法で測定した隣接測定点間のミスオリエンテーションであるKAM (kernel average misorientation)によって,一結晶粒内のミスオリエンテーションの分布を測定することが可能であり,すべりが伝ぱしにくい粒界近傍には,すべりの阻止効果によるKAMの増大が明確に測定されることを示した.一結晶粒内における隣接測定点間のミスオリエンテーションの平均値であるGAM (grain average misorientation) および一結晶粒内のミスオリエンテーションの広がりに対応するGOS (grain orientation spread) の測定領域での平均値は,付与した塑性ひずみとともに比例的に大きくなり,ひずみが20%以上では飽和する傾向にあることを示した.また,X 線回折図形の斑点の広がりから求められる全方位差は,ひずみが10%程度まで比例的に増大する.同一ひずみでの全方位差の測定値の平均は,EBSD 法によるGOSの平均値とほぼ一致することを明らかにした. EBSD 法のGOSとGAMの測定領域全体の平均値から,その領域の塑性ひずみを評価することが可能であることを示した.このように,各塑性変形パラメータの統計解析により,ミクロな塑性変形の測定結果とマクロな測定結果との関連を明らかにした.また,X線法に基づく測定結果との比較から,EBSDと従来法の関係を解明した.第3章では,EBSDにより得られた結晶方位パラメータEuler角から,力学パラメータであるSchmid因子,有効Schmid因子およびTaylor因子の任意荷重条件下での導出方法を示した.また,4つのすべりの幾何条件を表すパラメータ,つまり,すべり方向における変位量,すべりの深さ,すべりの試験片表面に平行する成分,およびすべりの表面すべり線に対して垂直な成分が,EBSD法およびAFM法の混合解析より求められ,すべり運動の3次元解析に有効なパラメータであることを示した.EBSD法による結晶方位の解析およびAFM , FIBの統合解析手法により,活動すべり面においてSchmid因子の最大値を取るすべり方向がすべり方向であることを実験的に証明した.第4章では,従来のSUS316NGの疲労試験データをJaske & O'Donnell曲線で整理し,中位の相当ひずみ振幅下でひずみ制御完全両振りねじり疲労試験を行った.EBSD法およびAFM法を用い,活動すべり系の分布を解明するとともに,活動すべり系と疲労き裂の表面観察より,疲労き裂を発生形態で分類して各き裂の分布を調べた.さらに,各すべり幾何関係パラメータを用いて,すべり帯き裂の発生条件について検討した.本材料において82%の結晶ではSchmid因子の最大値を持つ主すべり系が活動した.また,94%の結晶粒では主すべり系と第2すべり系が活動し,外部応力が各結晶粒に作用すると考えて活動すべり系を求めることが可能である.疲労き裂は,粒界き裂,双晶粒界き裂,すべり帯き裂および粒内き裂の4つに分類でき,疲労寿命の約4分の1のときには,粒内き裂が支配的であった.AFMの測定結果からねじり荷重下でのすべり帯き裂発生条件を検討した.すべりの深さとすべりの表面に垂直な成分はき裂発生に対応して,急激な上昇が認められ,かつこのときの測定値はすべり帯によらずそれぞれほぼ一定の160nmおよび170nmであった.第5章では,ねじり疲労と同じ相当ひずみ範囲条件下でひずみ制御完全両振り引張圧縮疲労試験を行った.EBSD法およびAFM法のハイブリッド法を用い,活動すべり系の分布を解明した.Schmid因子に基づき整理した活動すべり系の分布から,71%の結晶においてSchmid因子の最大値を持つ主すべり系が活動することがわかった.また,88%の結晶粒では主すべり系と第2すべり系が活動し,外部応力が各結晶粒に作用すると考えて活動すべり系を求めることが可能である. 疲労き裂は,疲労寿命の約4分の1のときには,すべり帯き裂と粒内き裂による粒内破壊が支配的であった. AFM測定から引張圧縮荷重下でのすべり帯き裂の発生条件を検討した結果,すべりの深さとすべりの表面に垂直な成分はき裂発生に対応して,急激な上昇が認められ,かつこのときの測定値はすべり帯によらずそれぞれほぼ一定の90 nmおよび110 nmであった.第6章では,電子後方散乱回折(EBSD)法による結晶方位の解析に基づき,すべり帯き裂,粒内き裂,双晶粒界き裂および粒界き裂のそれぞれの発生挙動において,結晶学の観点から疲労き裂の発生メカニズムを考察し,疲労き裂の発生を支配する結晶学パラメータを検討した.また,原子間力顕微鏡(AFM)を用い,疲労き裂の表面における凹凸の変化から,微視き裂の検出手法の開発を行った.活動すべり系のSchmid因子とすべりの表面垂直成分を考慮した幾何条件パラメータexp・sinξ,Taylor因子および有効Schmid因子が,それぞれすべり帯き裂,粒内き裂および双晶粒界き裂の発生の評価に有効であることを示した.また,粒界き裂の発生挙動は,粒界両側の活動すべり系から大きな影響を受けることを示した.第2章で述べた多結晶金属材料における塑性変形を定量的に表すパラメータは,機械構造部材の残留塑性ひずみの検出技術として応用が期待される.MEMS (micro electro mechanical systems) や薄膜など微小領域における塑性ひずみの評価に特に有用であると考えられる.また,結晶粒内および粒界付近におけるミスオリエンテーションの解析法は,金属材料にけるクリープの微視機構や,転位による塑性変形挙動などの基礎研究に対して新たな考察手法として利用できる.第3章で述べたFIB,EBSDおよびAFMの統合解析法は,材料の微視的機械特性および疲労特性に関する研究において,ナノメートル・スケールの新たな研究手法として広い応用が期待される.第4章と第5章で述べたねじりおよび引張圧縮疲労き裂の分布およびすべり帯き裂の発生条件に関する研究成果は,異なる荷重条件下での疲労設計に有用であり,より高精度な新しい設計法の基礎となる研究と言える.第6章で述べたき裂の発生箇所の結晶学的解析は,き裂発生の予測技術として用いられる.この技術をさらに発展させれば,機械部材における疲労き裂の発生箇所を結晶レベルで特定可能とし,材料微視構造を考慮した高い信頼性の設計法に道を開く成果である.今後の材料プロセス分野における結晶方位制御技術の発展とともに,き裂発生および伝ぱを抑制可能な結晶方位を設計に取り込むことが可能であり,より高疲労強度を発現する材料および機械構造物の作製が可能になると見込まれる., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類: 博士(工学)(課程) 学位授与年月日: 平成19年3月23日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形および初期疲労損傷に関する微視的研究}, year = {2007} }