@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009579, author = {林, 勇吾}, month = {Mar}, note = {これまで認知科学における協同問題解決研究では,現場観察や心理実験,計算機によるシミュレーションなどといった様々な研究手法を用いて研究が行われてきた. これらの研究を通して,人間の協同問題解決において,それぞれが異なる視点を持つということは,有効な相互作用を生み出す重要な要因であることが示されてきた.例えば,異なる観点や方略に立った他者との相互作用が,説明活動を促進し,外的表象の再解釈を促進したり,また反証事例を創発し,発見のパフォーマンスを改善したりすることが確かめられてきた.しかし,これまで実験参加者の視点を直接的に操作し,そこでの相互作用の特質を検討した研究はそれほど多くない.また,異なった視点を持つ相手と相互作用する際には,コミュニケーションに齟齬が生じる状況を考えなくてはならず,そのような状況を設定した研究は存在しない.このような背景により,異なる視点に基づく協同問題解決を実験的に検討できる研究パラダイムを新たに提案し,協同問題解決やそこでのコミュニケーションに関する研究を広範に展開する必要性があると考える.本研究では上記で述べた動機に従い,異なる視点に基づく協同問題解決に関する実験パラダイムを構築し,このパラダイムに基づいて2 つの研究を実施した.1 つ目の研究では,異なる視点に基づく協同問題解決における相互作用のプロセスを詳細に検討した.本論文の2 つ目の研究では,異なる視点に基づく人間とコンピュータエージェントによるコミュニケーションに注目した.特に,本研究ではコミュニケーションに影響するとされてきた相手に関する認識の「スキーマ」と「実際の相手の発話」がコミュニケーションの心理特性にどのような影響を及ぼすのかを検討した.本論文は,5 章から構成されている.各章の概要を以下に示す.1 章の「序論」では,先行研究で重要とされてきた知見に基づき,異なる視点に基づく協同問題解決の有効性や問題点について検討した.具体的には,これまでの協同問題解決研究で重要とされてきた「視点」について,様々なアプローチによる研究を取り上げた.また,異なる視点に基づく協同問題解決におけるコミュニケーションの困難性について,認知科学や社会心理学,コミュニケーション研究から取り上げた.この章では,これらの点を踏まえた上で新たな実験パラダイムを検討する必要性について述べた.2 章の「実験パラダイムの提案」では,異なる視点に基づいて協同問題解決に取り組むことを可能とする課題を提案した.ここでは,実験参加者の視点の操作方法,ならびにコミュニケーションの齟齬の発生方法について述べた.具体的には,ゲシュタルト心理学の図地反転の原理を応用し,実験参加者の知覚的な視点を操作し,コミュニケーションに齟齬が生じるような推論課題を考案した.3 章の「異なる視点に基づく人間同士の協同問題解決」では,異なる視点に立った他者との相互作用を検討した.この研究の目的は,異なる視点を有するペアの協同問題解決の特質を,同一の視点を持つペアの協同問題解決と対比的に検討し,また,これらの比較を通じて異なる視点を有するペアの協同問題解決の成功の要因を探ることであった.この2 点を検討するため,(a) 発話プロトコル,(b) 課題終了後のアンケート,そして(c) 課題遂行中の主観度評定,を分析の対象とした.以下では,規則発見者と規則未発見者に分けて分析の結果を述べる.まず,規則発見者について述べる.異なる視点を有するペアでは,(a) 自分の視点に基づいた分業を行い,(b) 相互作用を通して他者視点に関する正しい概念を構築し,(c) 規則発見時には飛躍的に解に到達する洞察的プロセスが見られる,ということがわかった.また,同一の視点を有するペアでは,(a) 分業による相互作用は生じず,(c) 問題解決は漸進的に進行するということがわかった.次に,規則未発見者について述べる.発話プロトコル分析の結果,異なる視点を有するペアと,同一の視点を有するペアでは,全員が1 つの色の視点に偏った相互作用を行っていたことがわかった.4 章の「異なる視点に基づく人間と対話エージェントとのコミュニケーション」では,HHI(Human Human Interaction),およびHAI(Human Agent Interaction) に関する検討を行った.この研究の目的は,次の2 点であった.(1) 相手に関する「スキーマ」と,「実際の相手の発話」がコミュニケーションの認知的・感情的心理特性にどのような影響があるのかについて検討することと,(2) コミュニケーションにおける齟齬の大きさが,上記のコミュニケーション特性への2 つの要因の影響にどのように反映されるのかについて検討すること,であった.この2 点を明らかにするために,コミュニケーションの心理特性に関するアンケートを課題終了後に実施し,分析した.以下では,相手に関する「スキーマ」と,「実際の相手の発話」に分けて結果を述べる.まず,「実際の相手の発話」に関する結果を述べる.「実際の相手の発話」の影響に関しては,(1) 全てのアンケート項目において「実際の相手の発話」が人間であるかエージェントであるかによってコミュニケーションに対する心理的な評価が変化することが確認された.また,(2) その傾向は,コミュニケーションの齟齬の大きな群でより顕著に現れ,コミュニケーションの齟齬の小さな群においては限定的になることが確認された.次に,「スキーマ」に関する結果を述べる.「スキーマ」の影響に関しては,(1) コミュニケーションの感情的な側面に関するアンケート項目においてのみ,「スキーマ」が人間であるかエージェントであるかによってコミュニケーションに対する心理的な評価が変化することが確認された.また,(2) その傾向は,コミュニケーションの齟齬の小さな群においてのみ残り,コミュニケーションの齟齬の大きな群においては消失することが確認された.最後に,5 章の「結論」において本論文の総括として総合的な考察を行い,さらに,今後の研究の展開についての指針を示した., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(情報科学) (課程) 学位授与年月日:平成21年3月25日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {異なる視点に基づく協同問題解決に関する研究}, year = {2009} }