@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009588, author = {水野, 和子}, month = {Mar}, note = {2-クロロエタノール(CIEtOH)はタンパク質の変性においてEtOHやプロパノールと、1)これらのアルコールはともにタンパク質のヘリックス含有量を増加させる変性剤として作用するが、CIEtOHはEtOH、プロパノールに比べて低濃度ではるかに強い変性効果をもたらす、2)CIEtOHはタンパク質近傍においてバルクよりもより濃度が高くなる、いわゆる選択的相互作用を示すが、EtOH と2-プロパノールにおいてはこれは観測されない、という点でことなっている。これまでに報告されてきたCIEtOHによる変性の原因は、塩素部分をも含めた疎水性のアルキル部分がタンパク質の疎水性部分と相互作用するというものであった。しかし、CIEtOHの疎水性はEtOH と1-プロパノールの中間にあることが報告されていることから、疎水性部分に起因する機構では、変性についての上の2つの違いを説明できない。本研究は、CIEtOH分子が持つ疎水性以外の特徴として、塩素の電子吸引効果によってもたらされるアルコールOH基の極性に注目して、アルキルアルコールには無いCIEtOHのこの極性がその強いタンパク質変性能力に関係がないかどうかを調べることを始点として、CIEtOHによるタンパク質変性の機構を明らかにすることを目的とした。実験についての概要は次のようである。すなわち、本研究の実験でタンパク質そのものを用いることは結果の解析を複雑にするばかりであると思われたので、L-アミノ酸残基を含むペプチド化合物を合成し、これらのペプチド化合物とさらにはより単純な構造のいくつかのアミド化合物について、四塩化炭素溶液と、水一重水の溶液中での自己会合におよぼすCIEtOH とEtOHの効果を調べた。結果と考案の概略を以下に述べる。まずはじめにCIEtOHの水素結合性の大きさについて調べるために、四塩化炭素溶液中で、種々の2一置換エタノールがN,N-dimethylacet-amide とのあいだに1:1で水素結合するときのアルコールのOH伸縮振動の波数シフトを比較したところ、CIEtOHでは224cm^{-1}、EtOHでは177cm^{-1}、またそのときの水素結合形成反応の平衡定数は21℃でそれぞれ、10.9、3.6(dm^3 mol^{-1}])であった。これらの値からCIEtOH の水素結合性がEtOHよりもかなり大きいことがわかった。つぎにアミノ酸残基としてGly, _L-Val, _L-Leu, _L-Pheを含むペプチド化合物としてN-acetyI-_L-amino acid N’ , N’-dimethylamideを合成し、これらが四塩化炭素溶液中で形成する会合体の構造と会合の平衡定数を、IRと_1Hnmrの方法で調べた。その結果、これらのペプチド化合物はサイクリック構造を持つダイマーを形成し、それぞれの会合定数は20℃で3,4(G), 11.0(P),22.4(V),22.1(L)(dm^3 mol^{-1})であった。クロロホルム溶液中においても同じ構造のダイマーが形成されるが、水素結合の形成率はかなり小さくなる。一方、水一重水中においてのこれらのペプチド化合物の水素結合による会合をFTnmr 法によって調べた結果、水素結合形成率はクロロホルム中よりもさらに小さく、水素結合を1組ふくむ構造のものが多く形成されることがわかった。このように、ペプチド基間の水素結合形成は溶媒の水素結合性が低いときは多く、高いときは少なく、溶媒の水素結合性を敏感に反映することを実験的に確認した。また会合体の構造については、四塩化炭素溶液中では水素結合の数が多くなるように、一方の水溶液中では疎水性部分の相互作用がより多くなるような構造をとることを明らかにした。つぎに四塩化炭素溶液中でのCIEtOH とペプチドあるいはアミド化合物との相互作用について調べた。まずCIEtOHやEtOHなどとN,N-dimethylacetamideのカルボニル部分との水素結合において、アルコールの濃度を相対的に高くしてC=0伸縮振動の波数シフトを測定した結果、CIEtOH、EtOHによるシフトはそれぞれ、31, 25(cm^{-1})であった。とれはカルボニル1個に対して2分子のアルコールが水素結合することによって非常に安定な水素結合が形成されるためである。とくにCIEtOHが形成するこのような水素結合は非常に安定であること、そのために、3分子あるいは4分子以上が鎖状に水素結合によって自己会合し、非常に安定な水素結合が形成されるN-methylacetamideの溶液においても、CIEtOH との水素結合のためにアミドの自己会合が抑制されることを示した。この結果から、CIEtOHはタンパク質内部の安定なアミド基間の水素結合をも解離するのに十分強い水素結合性を持っていることがわかった。また、これとは別に、CIEtOHのOH基と塩素がそれぞれプロトンドナー、アクセプターとなってペプチド化合物とのあいだに2官能基的な水素結合による相互作用をすることを示した。さいごにCIEtOHが水溶液中のペプチド化合物の会合におよぼす効果についてFTnmr法を用いて調べたところ、四塩化炭素溶液中において発揮されたCIEtOHの強い水素結合性はここではまったく発揮されないばかりか、ペプチド化合物の水素結合による自己会合を促進することがわかった。したがって、水溶液中で重要なのは、CIEtOH とペプチド化合物との相互作用ではなく、CIEtOH と水とのあいだの相互作用であることを明らかにした。そして水とCIEtOHの混合物のOHプロトンのケミカルシフト測定から、CIEtOHが水の構造を破壊すること、これはペプチド化合物の水溶液においても起こることを示した。このために水とCIEtOHの混合物の水素結合性は減少し、さらにCIEtOH の疎水性部分の混合物全体に占める体積の割合もCIEtOHの増加に伴ってふえるために、混合物全体としての水素結合性はCIEtOH の増加によって減少することを指摘した。したがってCIEtOHによるペプチド基間水素結合の促進はCIEtOHを加えたことによって生じる溶媒の水素結合性の低下の結果であると結論することができた。そしてCIEtOHによる水構造の破壊の原因として、塩素部分が弱い負電荷を帯びることと関係があると推定した。一方EtOHはペプチド化合物の水一重水溶液中において低い濃度でCIEtOH とは逆にEtOH-水混合物の水素結合性を強くするように作用することを確認した。この時ペプチド化合物の会合がわずかに進むが、EtOH の増加にともなってアルキル部分に由来する疎水性も増加し、水-EtOH混合物の水素結合性の大きさは変わらなくなる。これに対応して、ペプチド化合物の会合にも変化が現れなくなり、すなわち、EtOHのペプチド化合物の会合に対する効果も、溶媒の水素結合性の変化と関連づけることができた。以上の水とCIEtOHとの相互作用に加えて、水一重水中でペプチド化合物とCIEtOHは等モル付近で疎水性相互作用を起こすことをNOE とT_1の測定から明らかにした。そして、1-プロパノールに比べても小さい疎水性しか持たないCIEtOHが疎水性相互作用をする原因として、ペプチド近傍への逃散によってバルクの水-CIEtOH混合物中のCIEtO円の繊度が減少することによってもたらされる系のエネルギー安定化の効果を指摘した。このときペプチド化合物近傍ではCIEtOHの増加による溶媒の水素結合性の低下がさらに進み、その結果としてペプチド化合物のアミド基間水素結合の形成が促進されると考えることができる。タンパク質のα-ヘリックス増加をペプチド基間水素結合の形成とみなして単純化すると、本研究で得られたCIEtOHの増加によってもたらされたペプチド化合物の自己会合の促進の機構をそのままCIEtOHによる変性に当てはめることができる。すなわち、タンパク質の近傍の溶媒である水-CIEtOH混合物の水素結合性の低下がタンパク質のペプチド基間の水素結合形成をもたらすと予想できる。さらにCIEtOHのタンパク質への選択的相互作用についてであるが、この相互作用は単に疎水性相互作用というよりは、タンパク質の近傍にCIEtOHが集まることによるバルク部分のエネルギー安定化と深く関係していることを指摘することができる。逆にEtOH と水の混合によるエネルギー的安定化の効果を考慮するとEtOHによる選択的相互作用は起きないと考えることができる。本研究のはじめでは、CIEtOHが水溶液中においても水素結合性の溶媒として作用し、タンパク質のペプチドカルボニル基に水素結合した中間体の存在を仮定していた。しかしながらこの予想はまったくはずれてしまった。本研究の結果はCIEtOH、EtOH によるタンパク質の変性が分子間の相互作用ではなく、溶媒の熱的な安定性と深く関係し、タンパク質近傍の水素結合性の大きさの変化によってもたらされることを示している。そして、この結論を踏まえた上で、水溶液中のタンパク質の構造を安定化している因子について言及するとすれば、それぞれのタンパク質に特有の2次構造をもたらしている最も大きな因子はタンパク質のまわりの水の水素結合性の大きさであると言うことができる。そしてこのタンパク質の近傍の水の水素結合性を決定しているものはタンパク質そのものであると言うことができる。すなわち、側鎖の疎水性水和やイオンなど種々の原因による水の構造の変化への寄与を考慮しなければならない。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:理学博士 (論文) 学位授与年月日:平成1年3月15日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {ペプチド化合物の溶液内会合におよぼす2-クロロエタノ-ルの効果}, year = {1989} }