@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009592, author = {松山, 政夫}, month = {Mar}, note = {水素同位体には軽水素、重水素及びトリチウムの3種類が存在する。水素同位体は最も軽い原子の同位体であり、同位体効果に関する実験的検証及びその理論的考察に対して最も好都合な元素である。また、トリチウムはβ線を放出する放射性同位体であるため、同位体効果に加えて放射線効果の研究やこれらの効果が相乗的に作用するような新しい協力現象の解明の研究に手がかりを与える可能性も秘めている。このような同位体効果及び放射線効果などの基礎的研究を行うには、トリチウムを軽水素や重水素と同等に取り扱うことが出来るような安全取扱い技術の確立が必要不可欠である。しかしながら、トリチウムは他の同位体に比べその取扱いが困難であるために、トリチウムの物理的・化学的性質及び材料との相互作用などに関する基礎的データが非常に不足しており、水素同位体の同等使用の際に要求されるようなトリチウムの安全取扱い技術の開発が大きく立ち後れている。更に、トリチウムを含む水素同位体に関連する基礎的研究は、同位体効果や放射線効果などの解明のみならず、近年エネルギー問題の観点から注目を浴びているD-T核融合炉での燃料としての大量トリチウムの安全取扱い技術の確立に対しても大きく寄与するものである。このような観点より、本研究はトリチウムの安全取扱い技術に係わる基礎的技術の研究開発を目的とし、真空装置内におけるトリチウムを含む水素同位体の計測法の検討及びトリチウムの貯蔵、供給、回収、計測、閉じ込め、廃棄物処理技術等において共通の問題となるトリチウムと材料との相互作用、特に金属及び酸化物に対するトリチウムの吸着一脱離挙動について調べたものである。本論文は9章からなり、第1章は、序論として、上述の内容についての記述である。第2章は、トリチウムが発見されてから放射能を持つことが確認されるまでの歴史、これまで報告されているいくつかのトリチウムの基礎物性値及び熱力学的データ、トリチウムの生成法およびトリチウムの利用例などについて述べている。第3章では、トリチウムを取扱うための特別な実験装置の設計に際して、トリチウム取扱い用真空装置に対する要求仕様とそれに基づく設計の一例を示した。即ち、真空排気系、圧力測定系、トリチウムガスの貯蔵一供給及び分析系の各サブシステムの要求仕様とこれらの要求仕様に基づいて設計された5Ci程度のトリチウムガスを安全に使用出来る装置の一例を提示した。第4章では、トリチウムガスの測定法について述べている。水素同位体を真空装置内で取り扱う場合、最大6種類の水素同位体分子を弁別・定量する必要がある。この目的に最も合致する分析装置として四重極質量分析計を採用し、各水素同位体分子に対する質量分析計の感度を測定した。また、真空装置の全圧計として通常使用されているB-A型電離真空計の感度も同時に測定した。その結果、6種類の水素同位体分子に対する質量分析計及び電離真空計の軽水素を基準とした相対感度の傾向は類似していることが明かとなった。HD及びT_2を除く水素同位体分子の相対感度はいずれもほぼ1となり、HDではH_2の感度より約10%大きく、T_2では逆に約5%小さくなった。従って、HD及びT_2を含む試料気体の分析では分析計の感度補正が必要であることが知られた。更に、四重極質量分析計の相対感度は、分解能が数倍変化しても影響を受けず、同種の装置であれば本実験で得られた相対感度を適用できることが知られた。第5章では、トリチウムの貯蔵-供給-回収に関する問題として、水素貯蔵合金(Zr系合金)に対する水素同位体の吸蔵-脱離について述べている。この合金が水素吸蔵作用の発現を示す活性化状態は、入手状態の合金を真空中で一定強度に加熱するだけで容易に得られ、合金表面の構成元素が真空加熱の操作によって酸化物状態から金属状態に還元されることによって達成されることが知られた。このように活性化処理を施したZr系合金に水素同位体を吸蔵させた際の室温での平衡解離庄は極めて低く、トリチウムガスの貯蔵材として有望であることが明かとなった。また、水素同位体及び同位体水の吸蔵速度ほいずれも各々の圧力に対して1次となり、表面での解離吸着が律速であることが知られた。一方、脱離速度は表面での水素同位体の会合反応が律速となる2次の速度式で表されることが知られた。吸蔵の際、トリチウムガス中に3He 同位体水及びトリチウム化メタンなどのような炭化水素の不純物が含まれている場合でもトリチウムのみを選択的に吸収し、トリチウムガスの精製も可能であることが見いだされた。更に、Zr-Ⅴ-Fe及びZr-Ni合金に対する水素同位体および同位体水の吸蔵や脱離の活性化エネルギーが昇温脱離法によって求められ、水素同位体の吸蔵過程ではZr-Ni合金の方がZr-Ⅴ-Fe合金よりも大きな同位体効果を示し、同位体水に対する同位体効果は水素同位体に対するそれよりも大きくなった。即ち、Zr-Nl合金は水素同位体や同位体水の分離に対しても適用可能であることが示唆された。これらより、Zr系水素貯蔵合金がトリチウムガスの貯蔵-供給-回収材料のみならず分離・精製材料としても有望な候補材料になりうることが知られた。第6章では、金属材料に対するトリチウムの汚染及びその除染に関する問題として、真空装置や計測装置に主として用いられる金属材料に対するトリチウムの吸着-脱離挙動を調べた結果について述べている。真空条件下にある鉄では、トリチウムガスの接触により、トリチウムが表面に吸着すると同時に金属の内部にも一部溶解する。金属表面の状態によってトリチウムの吸着量及び吸着状態は大きく変化し、溶解したトリチウムは表面のトリチウム濃度の変化や一酸化炭素のようなトリチウムとの反応性に富む気体の付加によって表面に再拡散することが知られた。一方、銅、ニッケル及び金などの金属材科がトリチウムを含む大気の条件下にさらされた場合、銅やニッケルでは雰囲気中の湿度条件によってトリチウムの吸着量に相違がみられるが、金には湿度条件に関係なくトリチウムガスが殆ど吸着せず、トリチウムの吸着はその金属が有する本来的な吸着能によって支配されることが知られた。これらより、トリチウムガスを使用する装置材料としては金が有望な材料であることが知られた。しかし、金でもトリチウム水の吸着は避けられず、吸着トリチウム水の除去に対しては紫外線による光照射が有効であることが明かとなった。第7章では、二次電子増倍管や絶縁材料に対するトリチウムの汚染及びその除染に関する問題として、酸化物に対するトリチウムの吸着-脱離挙動について調べた。結果について述べている。酸化物材料でもトリチウムの吸着は起こり、酸化物を原料として製作された二次電子増倍管では、トリチウムが酸化物の表面に水酸基を形成して捕獲されているが、500℃以上の高温に加熱することによってトリチウム水として脱離・除去が可能であることが知られた。更に、二次電子増倍管を検出器として装備した質量分析計では、トリチウムガスの分析操作によって二次電子増倍管へのトリチウムの吸着が起こり、その性能が著しく阻害されることが明かとなり、その対策としては先に示したような光照射法などによる除染法の検討が必要であると考えられる。第8章では、トリチウムをトレーサーとして利用し、エチレンの水素化反応に対する反応機構の考察と同時に触媒表面での水素の挙動を調べた。その結果、触媒表面の水素濃度が反応生成物の種類に大きく作用し、Pt/SiO_2での水素化反応速度と交換反応速度の比率は、Ni/SiO_2での比率よりも約100倍大きくなり、Pt/SiO_2では水素化反応が圧倒的に優勢に進行することが知られた。このことは、Pt/SiO_2触媒がトリチウム除去システムでのトリチウム酸化触媒としても有望であることが示唆された。第9章においては、前記の章の総括と今後の展望について述べている。以上、本研究においては、水素同位体の同等使用をめざして、金属及び酸化物に対するトリチウムの吸着-脱離挙動を検討し、トリチウムの安全取扱い技術の確立に関連する基礎的研究を種々の角度から実施したものである。その成果として、最終的には一回に10Ci(~10^{-4}モル)程度のトリチウムを安全に取り扱うための技術の確立およびこの技術の確立の基本となる水素同位体と種々の材料との相互作用に関する基礎的知見を得た。このようにして確立されたトリチウムの安全取扱い技術は、水素同位体の同等使用による同位体効果や放射線効果などの研究及びD-T核融合炉におけるトリチウム制御・管理の研究開発に広く利用されると考えられる。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成2年3月8日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {金属及び酸化物に対するトリチウムの吸着 -脱離に関する研究}, year = {1990} }