@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009596, author = {吉野, 誠司}, month = {Oct}, note = {アモルファス(a-)希土類一鉄族(RE-TM)合金薄膜は、適当な作製条件の下で垂直磁化膜となり、大容量高密度光磁気メモリ媒体として実用に供せられるに至っている材料である。ここで、垂直磁化の原因となっている垂直磁気異方性K⊥は、薄膜作製法・条件やRE、TMの種類などに強く依存することが知られている。例えば、Gd-Coでは、通常の真空蒸着法やスパッタ法では垂直磁化膜とならず、基板に負の電圧を加えたバイアススパッタ法でのみ垂直磁化膜となる。他方、Gd-Feでは、真空蒸着法でもスパッタ法でも垂直磁化膜が得られ、バイアススパッタ法ではかえってK⊥が減少する。このような複雑なRE-TM薄膜のK⊥の挙動は、単にその制御を目的とする工業的観点からばかりでなく、物理的にも極めて興味ある問題となっている。RE-TM薄膜のK⊥の起源としては、(1)方向性原子対配列、(2)磁気ひずみの逆効果、(3)1イオン異方性、(4)柱状構造による形状異方性、の四つが提案されている。このいずれも、ある条件の下ではK⊥の主因となることが知られているが、RE-TM系全体についての系統的理解には至っていない。これは、一般的な条件で作製された膜についての、この4成分の寄与が明らかでないところに主な原因がある。 この研究では、(2)の磁気ひずみの逆効果に注目し、まず薄膜の磁気ひずみ定数測定装置を試作して実測し、次いで基板から膜をはがした前後のK⊥、さらにヤング率、内部応力等を、実用上重要なGd-Co、Gd-Fe、Gd-FeCo、Tb-Coを中心に測定し、K⊥に及ぼす磁気ひずみの逆効果の寄与を明らかにした。また、これらの研究を通して、磁気ひずみの物理的起源についても考察を行った。このほか、工業的に興味がもたれているK⊥に関する諸問題、すなわちK⊥の不均一性や熱安定性についても研究を行った。以下、各章毎に研究成果を要約する。第1章では、まずa-RE-TM膜の研究の歴史を簡単に振り返り、次いで光磁気記録の原理と記録媒体に要求される性質を明らかとし、これと関連する基礎物性についての研究を、磁気累方性および磁気ひずみを中心として紹介し、本研究の目的と意義を述べている。第2章は、以下の各章に共通する実験方法をまとめた章である。薄膜の磁気ひずみ定数の測定には、二つの方法を用いた。その一つはカンチレバー・キャパシタンス法である。細長い試料の長手方向の基板の一端を固定してカンチレバーとし、他端の膜面に近接して対向電極を設置し、平行平板コンデンサとする。試料に外部磁界を印加すると、磁気ひずみにより試料は変形するが、これが試料の自由端の変位として現れ、コンデンサの容量を変化させる。この容量を発振器のタンク回路に接続し、磁気ひずみの大きさを発振周波数の変化として検出することにより、極めて感度の高い測定を行うことができる。クラップ発振器と水晶発振器を用い、ダブルヘテロダイン方式を採用して発振周波数の安定化を図るとともに、試料を恒温槽に収納し、さらにカンチレバーを静電的にシールドするなどの工夫の結果、10^{-6}オーダーの薄膜の磁気ひずみ定数を測定することが可能になった。磁気ひずみ定数の絶対値を知るには、薄膜のヤング率の測定も要求されるので、振動リード法による測定装置も試作した。以上の方法は、直接磁気ひずみ定数を測定するものであるが、測定に非常に手間がかかることと、湿度依存性の測定が困難であった。このために、基板を強制的にわん曲させて薄膜にひずみを与え、磁気異方性の変化から磁気弾性結合エネルギー定数を求め、磁気ひずみ定数を算出するという間接法も併用した。第3章は、a-Gd-Coとa-Gd-F e薄膜の研究をまとめた章である。当時すでにこれらの膜については多数の研究が行われており、K⊥に及ばす基板バイアスの重要性や役割がほぼ明らかにされていた。この研究では、Gd、Co、Gd、Coと4分割された複合ターゲットを用い、別々にバイアスのかけられる直流四極スパッタ法で薄膜を作製し、K⊥に及ぼすバイアス効果を調べると共に、実用上の観点から、K⊥の均一牲について詳細な研究を行った。バイアス効果については、Gd-Coでは約-20[V]のときに最大のK⊥が得られ、この値は高周波(rf)二極スパッタの場合の-100[V]に比べるとかなり小さいこと、バイアスを深くするとGdの再スパッタが激しく行われることを確かめた。直流四極とrfスバッタの違いはスパッタガスArの圧力にあり、基板に到達するイオンのエネルギー(推定)を目安とすると両者はほぼ同じとなり、Gdの再スパッタによるCo原子対の方向性配列がGd‐Co薄膜のK⊥の主因であるとする説を裏付ける結果となった。この直流四極スパッタ法では、簡単な複合ターゲットが使用でき、またターゲットに加える電圧で組成制御ができる、といった実用上の利点があるが、広面積の膜における磁気特性の面内均一性がrfスパッタ法よりむしろ劣ることが分かり、以下の研究ではrfスパッタ法で膜を作製した。RE-TMスパッタ膜の磁気特性は、膜厚方向にも変化することが示唆されている。そこで、この不均一性がどの程度のもので、その原因は何か、そしてどのような低減策があるかを探るために、膜厚方向の特性変化を調べた。この方法は、R E-TM薄膜作製の途中に(膜作製は中断)膜のホール効果を測定し、その湿度変化から補償温度T_compを求めて、組成や飽和磁化を推定した。不均一性の原因として、基盤やターゲット表面に吸着されている酸素によるGdの選択酸化が考えられるので、基板の表面処理方法を変えることと、ターゲットのプリスパッタ時間を変えて実験を行った。基板の表面処理では、洗剤と脱イオン水による超音波洗浄ではかなりの不均一性が残るのに対して、真空槽内で加熱脱水と逆スパッタをおこなうことによりかなり改善され、さらにガラス蒸着をするとほとんど不均一性は除去されることが分かった。また、ターゲットについては、プリスバッタが極めて重要で、約30分が適当な時間であることが分かった。以上の効果がGdの選択酸化によることは、オージェ電子分光(AES)による酸素の膜厚方向の分布や、X線電子分光(XPS)による結合状態の解析によっても支持された。第4章では、Tb-Coスパッタ膜の特性を、K⊥を中心に調べた。従来、Tb-Co薄膜は垂直磁化膜が得られないとされていたが、70[V]以上の負のバイアスを基板に加えるとやはり垂直磁化膜が得られることが発見された。K⊥はバイアスが-100[V]のときに最大値を取り、その大きさは補償組成近傍でおよそ2×10^5[J/m^3]で、これまで知られているRE-TM系では最大となることが分かった。また、飽和磁気ひずみ定数も2×10^{-4}と非常に大きいことが分かった。磁気ひずみの逆効果のK⊥への寄与を明らかにするために、内部応力を測定してこれを見積もると、全体のおよそ50%にも達することが分かる。しかし、膜を基板につけたままの場合と基板からはがした後のK⊥の変化は全体の20~30%に過ぎず、計算値のおよそ半分であった。この差は、スパッタ条件に敏感な内部応力の違いによるものと推定された。Tb-Coを実用に供しようという立場から、K⊥の熱安定性を等時焼鈍によって調べたが、その変化はGd-Co等の場合とほとんど同じであり、実用上特に問題とはならないことが分かった。第5章では、擬二元系Gd-FeCo薄膜について、磁気ひずみとK⊥の研究を行った結果を示した。Gd-Co系における磁気ひずみ定数は、最初Gd濃度の増加と共に急激に増加し、Gd≃15[at.%.]でλ_s ≃2×10^{-5}の最大値を示した後、Gd濃度の増加と共に急激に減少した。CoリッチのGd-F e Coでは、アモルファス相の現れるGd≃10[at.%]でλ_sは最大値を示し、Gdの増加と共にやはり急速に減少した。Feの増加につれてλ_s は減少し、Gd量に対する変化もそれに見合って緩やかなものとなり、Gd-Feではλ_sはGd量λ_sにあまり依存しなくなった。次ぎに、Gd量を一定としてλ_sのCo濃度依存性を見ると、Gd濃度の最も少ない10[at.%]の場合には、Gd-Coより出発してCoをF eで置換すると、初めF e量とともに急増し、Fe約30[at.%]にて最大値を示し、以後Gd-F eの値まで単調に減少して行った。以上のλ_sの組成依存性は、補償組成(Gd≃23[at.%])よりGdが少ない部分ではTM成分が大部分の寄与をしているが、Gd30[at.%]以上ではその寄与がほとんどなくなるものとして理解された。Co濃度の高いGd-F eCoでは、基板に負のバイアスを加えないとK⊥は誘導されない。ここで誘導されたK⊥は、磁気ひずみ定数と極めて良い比例関係にあることが見い出された。この比例関係から、K⊥がすべて磁気ひずみの逆効果によるものとして内部応力を計算すると、実測値の3~10倍にもなる。逆に言えば、磁気ひずみの逆効果により誘導されるK⊥は、全体の10~30%に過ぎない。この残りの部分も磁気ひずみに比例していることは、磁気ひずみの源と垂直磁気異方性の源が同一であることを示唆しており、Gd-CoのK⊥の源がCo-Co原子対の方向性配列によることを認めれば、磁気ひずみの源もここにあることを意味する。Co濃度の低いGd-Feに近い組成では、事情がかなり違って来る。特に、Gdが25~30[at.%]のところでは、K⊥はほとんど磁気ひずみの逆効果によっている。これは、膜作製に際してバイアスを加えていないことから、TM原子の異方的配列の発生が抑えられていることも一つの原因となっている。さらにGd濃度の低い10~20[at.%]のところでは、磁気ひずみとは関係しない磁気異方性成分が大きくなるが、GdとFe間の強い相互作用による原子対の方向性配列によるものと推測される。第6章は、第2章から第5章までの研究成果を総括した章である。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成2年10月31日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {アモルファス希土類-鉄族合金薄膜の垂直磁気異方性に関する研究}, year = {1990} }