@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009597, author = {加藤, 厚生}, month = {Oct}, note = {ロボットが地上に設置され自由空間で運動するとき,環境のダイナミクスはもっばら重力加速度である. ロボットはこのとき,重力加速度に抗しながら姿勢を制御し,手先の目標運動を実現する剛性の高いダイナミクスをもたなければならない. そのロボットが,作業対象から拘束を受けて運動する場合,環境のダイナミクスには作業対象物の慣性と粘弾性が加わる. ロボットはこのとき,手先の目標運動を実現するために環境のダイナミクスに対応して自らのダイナミクスを調節する柔軟性をもたなければならない. 自由空間と拘束空間を行き来して作業する接触作業ロボットに要求される能力は,自らのダイナミクスを剛性から柔軟性まで連続的に調節する能力であり,これを安定に実現する能力である. 今日,ロボットは剛性については実用的な能力を獲得している. 柔軟性についても,これを実現する技術的なバックグラウンドはあるが,現実問題として,接触作業のどの時点で,どの様に柔軟性を調節すべきかについて,充分な知見は得られていない. 本研究は,接触作業ロボットのダイナミクス調節に資すべき知見を得るために,ヒトの上肢に注目して,そのダイナミクスが運動中にどの様に調節されているかを明かにする目的で行った. この研究で対象としたのは,上肢のダイナミクスを決定する筋の粘弾性であり,直接的には,弾性環境に拘束されて運動する筋の粘弾性変化である. 研究目的は,実験とモデルシミュレーションによって達成した. 実験にあたり,環境のモデルとなる装置を必要とした. この装置は,機械インピーダンス特性をもち,その強さを自由に調節できるものでなければならない. 目的にかなう装置が存在しなかったため,研究の第1段階は,この装置の開発を目的として行った. 研究の第2段階は,開発した装置を使って実験により筋の粘弾性変化を推定する目的をもって行った. ところで,ヒトの上肢は,本質的に柔軟な筋を伝播遅れの大きな神経系で制御しているにもかかわらず,剛性から柔軟性に至る広範なダイナミクスを安定に連続して調節することができる. この機能は,筋の粘性と弾性の調節作用によるものと考えられている. 筋の弾性係数が筋活動レベルの増大とともに増加することはすでに明らかであり,その弾性係数も静止状態で力を発生する等尺性収縮から同定可能である. 筋の粘性係数についても,上肢の慣性能率をはじめ関節角度,角速度,角加速度はすべて計測可能だから,残る内力(筋の正味の発生力)を運動中の筋について測定できれば同定できることになる.ところが,運動中のと卜の生体筋が発生する正味の力は筋電位から同定する以外になく,その方法は今のところ確立されていない. そのため,筋の粘性係数については運動中にどの様な値をとり,どの様な変化を示すか,いまのところ不明である. そこで,本研究では,筋粘弾性変化を運動中の上肢に現れる振動現象から推定した. この振動現象は,弾性負荷を付けた手関節でランプ視標を追跡する等速度トラッキング実験によって観測した. しかし,トラッキング実験の結果からだけでは,筋の粘性と弾性のどちらがどの程度,振動周波数の変化に影響を及ぼしているか明確にはできなかった. そこで,さらに,モデルによるシミュレーションを行い,振動周波数の変化に及ぼす筋の粘性と弾性の影響を分離した. 本論文は第1章から第6章に至る6つの章で構成されている. 第1章は「序論」であり,接触作業ロボットの制御を実現する上で,そのモデルとも言うべきヒ卜の上肢の制御機構に注目する立場から,ヒトの神経-筋系の可変粘弾性特性を明らかにすることの背景と意義を論じた. 第2章と第3章は新しく開発した可変インピーダンス装置について論じた. 先ず,第2章で論じた可変粘弾性装置について概要を述べる. 装置の機構部は2組の電磁パウダークラッチと誘導モータとで構成した. 2個の電磁パウダークラッチを同軸上直列に配置し,双方の出力ポートを1本のシャフトに連結して出力軸とした. 出力軸は被験者の手関節に連結され,その屈伸運動によって回転される. 出力軸の回転角度はポテンショメータで検出され,コントローラへ送られる. コントローラは,出力軸に粘・弾性特性を持たせるように電磁パウダークラッチ励磁電流を制御する. すなわち,先ず,ポテンショメータによって検出した出力軸角度と目標角度の差信号,および軸角度を微分して得た軸回転速度信号を作る. 次に,両信号を個別に可変ゲインアンプで増幅した後,加算する. 最後に,加算後の信号を正極性と負極性の半波整流回路によって正・負信号に分離し,2つの電磁パウダークラッチへ供給する. 供給する電流の極性と入力ハブの回転方向の関係が,外部トルクによる出力軸の回転を妨げる方向とすれば正の弾性係数を持った通常の粘弾性負荷として動作する. 装置の弾性係数と粘性係数はアンプのゲイン調節によってそれぞれ0から最大値まで自由に変化できる.第3章に論じた可変慣性能率装置も電磁パウダークラッチを用いているが,モータは速度制御可能なサーボモータとした. 慣性動作は装置出力軸の回転運動としてシミュレートしている. すなわち装置出力軸に外部からトルクが加えられたとき,そのトルクと設定した慣性能率によって決まる加速度で加減速し,トルクが無いとき速度を維持する. 電磁パウダークラッチはサーボモータ出力軸と装置出力軸の間に設置し,等価的に粘性動作をさせる. この等価的粘性要素の粘性係数を変えると,サーボモータ出力軸速度に対する装置出力軸速度の依存性が変わり,見かけの慣性能率が変化する. 実現に当たっては,出力軸速度の変化で外部トルクの有無を判定し,厄介なトルク検出を避けた. 実測によれば,40ms以内に慣性能率を切り替えることが出来た. 第4章と第5章は弾性特性を持つ環境に拘束されたヒトの神経-筋系における粘性係数と弾性係数の変化について実験とシミュレーションから論述した. 第4章に論じたトラッキング実験の主目的は,環境との相互作用によって筋の粘・弾性がどの様に変化するかを探ることである. 実験はと卜の手関節の屈曲運動として行ない,環境は弾性負荷とした. 被験者は,CRT面上に表示される視標を目で追いながら,負荷軸に連結したクランクを手関節で操作して,同じCRT面上に表示される追跡標を一致させるトラッキング運動を行う. 実験は視標の運動について予測可能なばあいと不可能な場合の2種類,追跡標の提示方法について視覚フィードバックのある場合と無い場合の2種類とし,その組合せの中から3種類を選んで行った. いずれも移動速度を10度/秒として,手関節を0度から30度まで屈曲させ,3秒間追跡させた. 視標はランプ状に移動するので,追跡運動はほゞ等速度運動になる. 負荷トルクは,0から0.5おきに2.ONm/30deg(0から1.0おきに4.ONm/radにほゞ等しい)まで5段階変えた. 各負荷条件について10回の成功試行が得られるように行った. 実験結果として得た1試行3秒間のトラッキング偏差から,順次0.2秒づつずらしながら1秒区間を切り出し,FFTおよびARモデル推定法による周波数分析を行なった. その結果,負荷弾性係数が2Nm/radを超えるあたりからトラッキング偏差には5~10Hzの振動が観測されるようになり,この振動が負荷トルクに強い線形相関を示して高域へシフトする現象を確認した. 第5章のモデルシミュレーションは次のように行った. 先ず,脊髄レベル以下の神経-筋-環境系に関して,筋紡錘による筋長と筋短縮速度のフィードバック,および腱器官による力のフィードバックモデルを作り,これに視覚を含む中枢レベルの位置フィードバックを加えてモデルを確定した.次いで,このモデルにおいて筋の粘性係数と弾性係数を変化して特性根の配置が変化する様子を根軌跡として描いた. 最後に,筋の粘性係数と弾性係数を変化しながらランプ応答を計算し,その応答に現れる振動をARモデル推定法を用いて周波数分析した. 周波数分析の結果は,筋粘性の増加が振動周波数の増加に大きく寄与し,筋弾性の増加は大きな影響を与えないことを示した. このとき,周疲数増加傾向は,筋粘弾性係数を筋活動レベルによって増加したときトラッキング実験とよく一致した. 第6章は結論であり,第5章までに明らかにしたヒ卜の四肢の神経-筋系の可変粘弾性特性を接触作業ロボットの制御に取り入れることの意義を論じた. 接触作業ロボットの制御法として,ロボットのダイナミックスを環境によって調節するインピーダンス制御が有望である. インピーダンス制御では一般に動作中のパラメータ調節を禁止してはいないが,実際に一つの作業中にパラメータを連続して変化した実施例は報告されていない. 本研究は,接触作業ロボットの一つの目標であるヒトの上肢では,弾性負荷を付けた手関節の等速度運動と言う比較的単純な運動においても,筋粘弾性が連続的に変化していることを明らかにした. その結果から,連続的に関節インピーダンスを調節する可変インピーダンス制御が,接触作業ロボットの制御における一つの可能性を示唆しているとの結論を得た., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成2年10月31日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {接触作業における筋の粘弾性調節機構に関する研究}, year = {1990} }