@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009598, author = {浦山, 益郎}, month = {Feb}, note = {都市近郊の土地利用計画制度とそれに関する建築学・都市計画学分野の研究は、従来、農林地への無秩序な市街地拡大(以下、スプロール)の防止を課題として、郊外地の宅地開発手法、土地利用規制手法などの開発・改善に重点をおくものが多かった。しかし、近年の都市近郊におけるスプロールの激化は、スプロール抑制と同時に農林地の市街化過程を制御することによって計画的な市街地形成へ誘導する新しい計画的規制制度とその研究の必要性を生じている。また、農業経済学・農業土木学分野では、農地保全という観点から農地の優良性を序列化する方法論的研究が進められているが、都市的土地利用との調整という視点からの研究の歴史は浅く、実態としても都市近郊における農地の所有と利用の混乱が防ぎ切れていない。本論文は、こうした状況を背景として、都市的土地利用と農業的土地利用が競合する大都市近郊農業地域を対象地域として、農地を計画対象として土地利用計画に位置づけて、都市的土地利用と農業的土地利用の保全・利用を総合的に制御する土地利用計画システムのあり方に計画技術的側面から検討を試みたものである。都市近郊における土地利用計画の計画技術研究として、本論文では次の3つの課題を設定している。第一は、都市近郊農業地域において農地のスプロール化がなぜ発生しているのか、そのメカニズムを解明することによって、スプロール防止のために施行されている市街化区域と市街化調整区域(以下、調整区域)のいわゆる線引き制度を中心とする現行土地利用計画技術(制度)の問題点を明らかにすること。第二は、スプロール化の進行によって、土地利用上いかなる計画課題が顕在化するのか明らかにすること。第三は、以上のような計画課題に対応するために土地利用計画がもつべき計画条件を提示し、このような計画条件をもった土地利用計画の有効性を検証することである。第一の課題は第2章から第4章で扱っている。都市近郊のスプロール実態を分析した研究は多いが、本論文では、さらにスプロール発生要因を多角的に分析することによって、現行制度との矛盾点を明らかにしようとしたところに独自性がある。第二の課題については、第5章で、大都市近郊農業地域における土地利用変化の方向性と居住環境・農業生産環境・工業生産環境の問題点の2つの面から論じている。第三の課題は、第6章で、第一・第二の検討結果を踏まえて、大都市近郊農業地域の土地利用計画がもつべき計画条件を提示し、このような土地利用計画を適用している先進事例の分析を通して有効性を実証的に検証している。論文は7章で構成され、第1章:序論、第2章:都市近郊における都市化の全国的傾向、第3章:大都市近郊農業地域における都市化の空間的特徴、第4章:大都市近郊農業地域における市街化調整区域スプロールの発生要因、第5章:大都市近郊農業地域における都市的整備課題、第6章:大都市近郊農業地域における土地利用計画の計画論的検討、第7章:結論、となっている。以下、その内容と主な成果を述べる。第1章では、研究の目的と意義などを述べている。また、本論文では都市近郊を都市計画区域の調整区域と看做しているため、調整区域におけるスプロール現象を中心的に扱っていること、都市(市町村)レベルの土地利用計画を研究対象としていることなど研究範囲の限定をしている。第2章では、全国的な視野から都市近郊の都市化傾向の地域特性を明らかにするために、市町村単位に市街化区域と調整区域の人口変動を分析している。調整区域の人口増加が著しい市町村は三大都市圏に多いが、地方圏や地方でも、まとまった人口規模を有する都市では調整区域で安定的な人口増加が続いていることを明らかにしている。そのことを受け、短期的な影響は小さくても長期間に亙って調整区域における都市化が続けば土地利用混在化や混住化が進展するため、調整区域の都市化に起因する問題を大都市近郊の一部地域だけの現象として看過できないことを指摘している。第3章では、大都市近郊農業地域における都市化の空間的特徴を明らかにするために、調整区域の都市化が顕著な大都市近郊の典型として愛知県を、愛知県から調整区域の都市化が著しい都市と平均的な都市を、両都市から平均的な調整区域の開発状況がみられる典型集落を選定し、3つの空間レベルで調査分析を行っている。その結果、大都市近郊農業地域の調整区域における都市化は、農地の住宅地化と雑種地化という土地利用転換を伴っており、その空間的特徴は無秩序で分散的なスプロール(以下、調整区域スプロール)であること、調整区域スプロールは、①調整区域内部から発生する農家や農家分家、②雑種地目的の農地転用や既存宅地上での住宅宅地供給が惹起しているが、量的な差は②によって生じていること、農業振興整備地域におけるいわゆる農振白地は農地転用規制も都市計画規制も緩いため、農振白地の存在形態が調整区域スプロールを許す空間的な条件となっていることなどを明らかにしている。第4章では、第3章で選んだ典型都市・典型地区を調査対象として、このような調整区域スプロールの発生要因を、線引き制度と開発許可制度の運用、調整区域における住宅地化の要因である住宅宅地需要、農業的土地利用を維持する主体的条件、調整区域の開発を進める住宅宅地供給主体、の側面から多角的に分析している。この章の研究成果は次のようにまとめられる。大都市近郊農業地域の調整区域における住宅地化は、調整区域内部から発生する地域需要と調整区域外からの広域需要によって生じている。スプロール抑制のために広域需要は抑制すべきであるが、地域需要は在村通勤可能な立地条件や開発許可制度を充たすという制度的条件などから継続的に発生することが予想される。このような大都市近郊農業地域の需要条件を踏まえると、調整区域に指定されれば市街化が全面的に抑制されること、一方、市街化区域に編入されれば農地保全が困難なことから、土地利用を制御するためには現行の二区分型の線引き制度には明らかに限界があることを指摘している。また、大都市近郊では農家の兼業化が一般的な趨勢にあり、兼業化の過程で農地の資産的保有や土地放出が進んでいる。農地売買の過程で、開発意向のある農家や不動産業者が介在した場合、農地はやがて宅地化あるいは雑種地化に結びつく可能性が高い。時間的にも空間的にも分散して発生してくるこのような大都市近郊農業地域の土地供給条件を踏まえると、調整区域に立地や用途を規制誘導できる土地利用計画がないことが、分散的なスプロールを防止できない要因となっていることなどを述べている。第5章では、調整区域スプロールによる市街化と混住化がもたらす居住環境・農業生産環境・工業生産環境に関する問題点を調査分析し、大都市近郊農業地域における土地利用上の計画課題を論じている。この章の研究成果は次のようにまとめられる。農業基盤の上でのスプロールの累積は、農地と宅地の混在化だけでなく、最終的には日照・通風など相隣環境に支障を来す過密な居住環境の形成に結びついている。調整区域スプロールによる混住化は、居住環境整備要求が強い流入層を増加している。また、混住化によって農家が相対的に少数派になれば、農家の農業環境整備要求が、圧倒的多数の非農家層の要求の中に埋没してしまう問題がある。また、大都市近郊農業地域における住宅需要特性、居住者の住宅改善計画・工場経営者の改善計画を踏まえると、現状の法制度下では調整区域スプロールによる市街地の拡大と市街地更新が進む可能性があるため、長期的には大都市近郊農業地域の多くの地域で高密な市街地形成が進むことが予想される。したがって、短期的には都市的土地利用と農業的土地利用の相互が問題を生じないように土地利用調整を図る必要があること、長期的には調整区域スプロールの蓄積が混在かつ高密な市街地形成に結びつくことを制御するために、地域の発展という視点から抑制すべき需要と受け入れるべき需要を整理しながら、都市的土地需要を計画的市街地形成に誘導できる方策を考える必要性があることを論じている。第6章では、以上の全体を受け、大都市近郊農業地域における土地利用計画システムの計画条件を提示し、このような条件をもつ土地利用計画の有効性を検証している。この章では、まず、第2章から第5章までの分析結果と農業・農地を取り巻く最近の情勢を整理し、大都市近郊農業地域における土地利用計画の基本的課題は、無秩序な農地のスプロール化を抑制し、計画的市街地形成によって土地利用を秩序化することにあるとしている。線引き制度では調整区域が全面的に市街化を抑制すべき区域として位置づけられるため、実在する都市的土地需要を制御する都市計画が策定できないこと、農業振興地域整備計画では農振白地では農地保全機能が弱く、農政の対象から外れることから、現行の土地利用計画制度には、需要条件・土地供給条件からみれば漸次市街地化していく遷移地区と想定すべき大都市近郊農業地域の土地利用を計画論的に方向づけることができないという限界がある。このような問題を克服して、遷移地区の開発・整備または保全を方向づけるためには、都市的土地利用と農業的土地利用を土地利用計画の対象として遷移地区の将来像や土地利用を方向づけるマスタープランを策定し、計画実現手段・手順などを盛り込んだ実行計画によって計画を担保する土地利用計画システムが必要であることを論じている。さらに、このような計画条件を具備した土地利用計画とみなせる、①都市計画として農地の存続を位置づけると同時に農業振興策も適用している例、②農林地を含む総合的なマスタープランを策定し、現行線引き制度をマスタープラン実現の手段として弾力的に活用している例、③市街地と農村の一体的な開発・整備を図る総合的なマスタープランを策定し、実現手段として各種事業制度を導入している例、の3つの先進事例分析を通してその有効性を実証的に検証している。第7章では、第1章から第6章までの知見を整理しながら、大都市近郊農業地域における土地利用計画に係わる論点を総括的にまとめている。その内容として、①大都市近郊農業地域には農業生産上あるいは災害対策上から保全すべき農地は多いが、都市的な土地需給動向を踏まえれば、大都市近郊農業地域は次第に都市的土地利用の比重が高くなるいわば遷移地区とみるべきであり、②現行の土地利用計画制度は、このような大都市近郊農業地域の土地利用変化の方向性に対応するためには限界があるため、③都市的土地利用と農業的土地利用を一体的に制御する土地利用計画が必要であり、④このような土地利用計画を実効性あるものとする条件について述べている。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成3年2月4日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {大都市近郊農業地域における土地利用計画に関する研究}, year = {1991} }