@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009599, author = {後田, 澄夫}, month = {Jun}, note = {ガス絶縁に関する放電工学的な研究、例えば各種の電極条件あるいは電圧条件下での絶縁破壊電圧に関する研究は極めて多数にのぼる。また、SF_6 中での電子のスオーム過程の実験的および理論的研究もかなり奥深く行われている。しかし、SF_6 以外のガスに関する、絶縁ガスとしての可能性についての研究はまだ残されている。ガスレーザーの研究は、主としてレーザー発振を中心課題として発展してきた。従って、放電は上準位への励起状態を作るための手段であり、放電そのものに対する関心は高いとはいえなかった。レーザー準位への励起過程の研究は、詳細に行われており、レーザー気体の衝突励起断面積もかなり集積されている。いわば、原子分子の衝突過程、およびレーザー発振が、従来のこの方面の研究の流れであった。しかし、より効率よく、レーザー発振を起こさせるためには、その基である、放電状態を適正にするための研究も重要な課題といえる。本研究はこのような放電気体の基礎的な性質を明らかにするために実験およびシミュレーションを行い検討、討論を加えた。特に気体の移動速度に注目し研究を行った。レーザー発振に用いられているHe、Ne、Ar等の希ガスについては、電子移動速度およびゼロ電界移動度をボルツマン方程式解析より広い温度範囲について計算した。さらにCO_2 レーザー用気体については電子移動速度測定装置を製作し、移動速度の測定を行い、ボルツマン方程式による計算結果との比較検討をした。エキシマレーザーやプラズマプロセシング用気体であるNF_3と、Ar、He、N2 との混合気体についても電子移動速度と電子付着係数をボルツマン方程式解析より求めた。最後にプラズマプロセスに重要であるイオンの挙動について、本研究では、モンテカルロシミュレーション技法を用いて、He中のH^+ イオンにおけるRunaway現象について検討を行った。本論文は7章から構成されており、以下その概要を述べる。第1章では、電気工学の分野における、気体放電の応用技術についての現状と、本研究の目的、位置づけ、特徴および過去の研究の概要について示した。第2章では、ボルツマン方程式を用いて、レーザー発振によく用いられているHeとNeの電子移動速度WをE/N(Eは電界強度、Nは分子密度)およびガス温度Tの関数として求めた。E/N は1Td(1Tdは10^-17V・cm^2)~10^-4Td、TはHe については4.2K ~2000K,Ne については77K~ 2000K と広い範囲でWの値を求めている。計算値は過去の実験値と比較を行っているが、このような広い範囲にわたった実験値の報告は少ない。このように実験では測定が困難な領域の値も、計算により推定を行っている。このような計算においては衝突断面積の正確な値が特に必要である。Wの値から各気体の電子のゼロ電界移動度μθと、μθが定義できる最大のE/Nを広範囲のガス温度に対して求めた。計算に用いた衝突断面積の信頼性からみて、μθにおけるおおよその誤差は、He,Ne、Ar,Kr,Xeの順に3%、5%、10%、20%、20%程度であると推定される。第3章では、希ガスに混合された少量の付着性ガス分子が、電子の輸送係数に及ぼす影響をボルツマン方程式により解析している。特に使用するバッファーガスがラムザウァーガス(Ar,Kr,Xe)である時はその影響は大きいことが知られている。ここでは、希ガスであるAr、Heおよび分子ガスであるN2 にそれぞれ微量(0.1%以下)のNF_3 を加えた場合の輸送係数に及ぼす影響を明らかにする。NF_3 という気体はふっ素レーザーガスのドナーとして広く用いられている。LakdawalaらはN_2 およびHeをNF_3のバッファガスとして用い、NF_3の付着係数を実験から求めている。この実験値は、彼らの理論解析値と一致することを報告している。ただし、Arをバッファーガスとして用いた場合はこの理論値と実験値との間に大きな違いがあると報告している。筆者らはこの違いを、Lakdawalaらが用いた理論計算に不完全さがあると考え、この違いを明らかにするために、電子スオームの挙動をボルツマン方程式を用いて検討した。第4章では、パルスカウント法を用いた電子移動速度測定装置を製作し、炭酸ガスレーザー用気体の電子移動速度の測定結果について報告している。無声放電は、その代表的な応用例としてオゾナイザーや、近年になり炭酸ガスレーザの励起用放電として広く利用されている。そして、炭酸ガスレーザーの研究は数多くなされているが、最終的には小型かつ経済的で、高出力レーザーの開発が望まれている。この小型化に有効であると考えられている励起用放電としての高周波無声放電の動作周波数の上限、および安定なグロー放電が得られる最大電力密度の理論的な推測が特に期待されている。筆者等はこの推測に必要な情報を得るために、炭酸ガスレーザ媒質での、ボルツマン方程式解析による電子スオームパラメータの計算、および高周波無声放電のモンテカルロシミュレーションを行ってきた。今回この計算結果を考察するために、パルスカウント法を用いた電子移動速度測定装置を試作した。この測定装置は、コレクタに到着する電子群をパルスカウント法で測定しその到着時間分布から電子移動速度を測定するものであり、次のような特徴を持つ。(1)ドリフト距離を可変して測定できるため、電極近傍の非平衡の影響が除去できる。さらに電離が起こらない条件では拡散の影響も除去できる。(2)ドリフト距離を10cmから16cmと比較的長く設定することができるため、非平衡距離の長い気体条件での測定が可能となる。(3)電子付着によってコレクタへの到着電子数の少ない気体でも、長時間のパルスカウントを行うことにより測定可能となる。(4)差動排気を行っているため、ドリフトチューブ内は常に新しいガスが導入され、測定中のガスの劣化を最小限に抑えることが出来る。本章では試作した実験装置の測定の概要と比較的良く衝突断面積の知られているN_2、およびCO_2ガスレーザ用気体での移動速度の測定結果について述べる。またボルツマン方程式解析を用いたレーザー準位への励起周波数の計算結果についても報告している。第5章では、イオンの移動度について述べている。特に、イオンがRun-awayを起こしている状態でのイオンスオームの振舞いをより正確に、またMason の理論を確証するために、ドリフトチューブを用いた実験の代わりにモンテカルロシミュレーション技法を用いている。Runaway現象はLinらによって最初に予言された。それによれば、もし、イオンー原子間の運動量変換断面積の値が、相対運動エネルギーの上昇と共に減少しているならば、イオンが定常状態のドリフト速度を維持するために電界から得る運動量と、衝突によって失なう運動量とが平衡を保つことができなくなり、Runaway状態へと移行するとしている。ここでは、上記の理論や実験結果を確認するために、He中のH^+イオンのモンテカルロシミュレーションによって拡散係数、移動度の圧力依存性について報告している。そして、Runaway状態において、イオンの到着時間分布のピークの時間から求めた見かけの移動度は気体密度とドリフト距離に依存していることを明らかにした。その結果Runawayを観測するにはドリフト距離が15cm以上で、Heの圧力が0.2Torr以上で実験を行うことが必要であることが明らかとなった。第6章では、ヘリウム中のH^+イオンの速度分布が安定な状態からどのようにしてRunaway の状態へと移行して行くかをモンテカルロシミュレーション技法を用いて明らかにしている。Runaway 状態では電界方向へ速度分布の裾が大きく伸びていること、さらに、He中のH^+イオンの衝突周波数が相対運動エネルギーの増加と共に急激に減少する点のエネルギーの値は0.7eV であり、この値に相当する速度以内では、Runaway状態での速度分布も、Runawayをしていない時の速度分布と同じ形をしていることを明らかにした。第7章では本論文の総括を行い、本研究の工学的分野への応用に対する展望を述べた。また、本研究を基礎として、さらにこの研究を発展させる方向についても記述した。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成3年6月6日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {気体中の電子およびイオンスオームに関する研究}, year = {1991} }