@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009600, author = {田村, 陽次郎}, month = {Jun}, note = {筋肉はアクチンとミオシン両フィラメントの相対的な滑り込みによって収縮する.そのとき,ミオシンフィラメントを形成するミオシン分子の頭部はアクチンフィラメント上に結合しクロスブリッジと呼ばれる架橋を作る.このクロスブリッジはそれぞれが独立に働く張力の発生源と考えられている. 筋収縮の研究ではクロスブリッジがどのような性質を持ち,収縮中にどのような振舞いをするかを知ることが筋収縮の問題を解く鍵であり,それを知るための研究が数多く行われている.これまで,クロスブリッジ内にある筋収縮時に力を支えるバネがどこにあるのかの問題も含めて,バネの性質を知るためにヤング率の測定が行われている.ところがヤング率の測定では,いろいろな方向のバネを同時に測定してしまうため,筋収縮中どのバネがどの方向に主に効いているのか明確にすることはできない. 本研究では,周波数5MHzの超音波を用いて筋肉の長さ方向(筋線維に沿った方向)のバネについて弾性スチフネス定数の測定を行った.本研究で得られた結果及び論文の内容について以下に述べる.第1章では,まず研究の背景について述べ,次に筋肉を構成する蛋白であるミオシンとアクチン両分子について説明し,その弾性的性質について述べた. その後,筋肉が収縮を起こす最小単位であるサルコメア内でのクロスブリッジの役割とそのバネのモデルについて述べ,測定の対象についての説明をした後に,研究の目的と意義について述べた.その中で特に,本研究ではクロスブリッジにあるバネの性質を明らかにすることを述べた.これまでの弾性率の測定ではヤング率を求めていたのに対し,超音波の測定では弾性スチフネス定数が求まることを述べた.またこの章では幾つか上げた問題点に対する議論が後のどの章でなされているかその関連についても述べた.第2章では,実験方法について述べた.その内容は,順に筋肉の取付け法,筋肉の刺激法,リンゲル液の調整法,硬直筋の作成法,サルコメア長の測定法,超音波振動子の特性,音速の測定法についてである.音速の測定法では筋肉の収縮中の弾性率変化を測定するために時間電圧変換法と呼ばれる音速の精密測定装置を開発し,時間分解能260μsec音速変化の測定確度5桁の装置を制作したことについて述べた. 第3章では実験結果について述べた.その中で,静止筋の弾性スチフネス定数測定については3-1節で,筋収縮中の弾性スチフネス定数変化については3-2節で,硬直筋の弾性スチフネス定数測定については3-3節で述べた.静止筋については音速の温度依存性,サルコメア長依存性,周波数に対する音速変化について測定した.温度依存性では筋肉での音速変化が純水の音速変化と同じ振舞いをすること,水に対して音速増加が約70m/secであることを示した.サルコメア長依存性では静止筋ではサルコメアの長さに音速が無関係でほぼ一定であることを示した.周波数に対する音速変化の測定では弾性スチフネス定数が測定きれる条件について検討され,それを満たす周波数領域が3MHz以上であることを示した.また,ヤング率の測定条件下(周波数がkHz以下の弾性率測定)で測られた音速が約100m/sec程度であり,弾性スチフネス定数の測定条件下つまり超音波で測定される筋肉の音速がおよそ1500m/secであることを示した. 筋収縮中の弾性スチフネス定数測定では,等尺性条件下での単縮,強縮過程の音速変化,およびサルコメア長を変えたときの音速変化について述べた. 単縮,強縮過程での音速変化では音速が張力に先行して変化し,立ち上がり部分で約10msec,中間点で40-50msec音速変化が先行することを明らかにした.また,強縮過程での音速変化から弾性スチフネス定数の増加分が2.4×10^7N/m^2であることを示した.サルコメア長を変えて張力を測る実験は'長さ一張力関係,と呼ばれ,張力がその発生源と考えられているクロスブリッジの数に比例することを示す.サルコメア長を変えて音速変化の量を測る実験を,超音波による音速変化とクロスブリッジの数の関係を明らかにする目的で行った.その結果音速変化の量はサルコメア長を長くするのに伴い減少しクロスブリッジの数に比例することが判った.この実験によって超音波の音速変化はクロスブリッジのバネ定数を反映することを明らかにした. 硬直筋の弾性スチフネス定数測定では筋線維に治った方向と筋線維に垂直な方向について測定を行った.その結果硬直筋の弾性スチフネス定数は両方向とも弾性的に固くなることを示した.硬直筋の弾性率の増加は筋線維に沿った方向で2.2×10^7N/m^2で強縮中の弾性率の増加より少なかった.第4章では実験に対する考察を行った.4-1節で静止筋における弾性スチフネス定数測定に関する考察を述べ,4-2節で筋収縮時の弾性率測定に対する考察を述べた.4-1節のはじめにヤング率測定と弾性スチフネス定数測定の違いと弾性スチフネス定数測定の必要性を述べた. 静止筋のヤング率の測定例を示し,周波数100Hzから10kHzの間にヤング率は10^5N/m^2から10^7N/m^2に増加し,ヤング率には周波数分散があることを示した. 超音波で得られる弾性スチフネス定数はさらに2桁大きいことを示した. さらに筋肉の弾性スチフネス定数マトリックスを示し,ヤング率と弾性スチフネスの間の関係式を導いた・その式で筋肉のように成分の70-80重量%が水から成る生体組織の場合,弾性スチフネス定数マトリックスの各成分の値ははぼ同じと考えられ,その場合ヤング率はゼロに近い値になることを示した. これによってヤング率の値が弾性スチフネス定数の値に比べて2桁から4桁小さいことが理解された.ヤング率の測定では'長さ一張力関係'に相当する実験でヤング率の変化量とクロスブリッジの間に比例関係が得られない. その理由は静止筋の弾性とクロスブリッジ由来の弾性をヤング率の測定では区別できないからであることを示し,ヤング率測定の結果を説明する弾性モデルを提案した.また同時に弾性スチフネス定数の測定の結果を説明する弾性モデルを提出した. この章の最後ではミオシンとアクチン両分子の弾性と筋肉の弾性との関係を示し,筋肉の弾性が蛋白の持つ弾性の相加性によって理解できることを示した. 筋収縮中については静止筋同様ヤング率の測定が周波数300Hzから10kHzまで行われている. その結果,静止筋からのヤング率の増加は測定周波数に関係なく2~3×10^7N/m^2にあることが判った.超音波での弾性スチフネス定数の値が2.4×10^7N/m^2であるのでクロスブリッジ由来の弾性には見かけ上周波数依存性がないことが明らかにされた. また,クロスブリッジー個のばね定数を弾性スチフネス定数の増加量より求め,3.1×10^-4N/mという値を得た. 他の実験との比較ではⅩ線赤道反射強度およびⅩ線子午線反射強度の時間変化との比較を行ない,クロスブリッジが形成されるのにともなって強度変化が起こるⅩ緑赤道反射の時間変化が弾性スチブネス定数の時間変化によく合うことを述べた. 硬直筋でヤング率と弾性スチフネス定数の比較を行ない,硬直状態と収縮状態ではクロスブリッジの状態が異なることを示した. 第5章では筋肉の線維に垂直な方向の弾性スチフネス定数測定の試みについて概括した.第6章では超音波パルス法,およびレーザー走査型超音波干渉顕微鏡による筋肉の線維に垂直な方向の弾性スチフネス定数の測定法について述べた. レーザー走査型超音波干渉顕微鏡の測定では周波数100MHzの音波が使われた. また,筋肉の刺激方法は電気刺激の他に神経刺激でも行われた. 第7章では筋肉の線維に垂直な方向の弾性スチフネス定数の測定の結果について述べた. 超音波パルス法による実験では音速変化とクロスブリッジの数との関係を明らかにするために,長さ一張力関係,に相当するサルコメア長と音速変化の関係を調べた. その結果,クロスブリッジの数と音速の減少量が比例することが明らかにきれた. レーザー走査型超音波干渉顕微鏡による実験については,まず画像処理による音速の求め方について述べた. この実験で筋収縮中の音速の減少は静止筋に比べて7.5m/secであった. また,音速の減少は空間的に一様でなく揺らぎがあることを示した. さらにこの章では筋収縮中弾性スチブネス定数がソフトニングを起こす原因について現在考えられる理由を幾つか述べた. 最後に超音波パルス法およびレーザー走査型超音波干渉顕微鏡による測定結果をもとに筋線維に沿った方向,垂直な方向以外の方向の弾性スチフネス定数の値が筋収縮中減少することを計算で求め,その値を示した.第8章では全体のまとめを行った., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (論文) 学位授与年月日:平成3年6月30日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {超音波法による筋肉の弾性の研究}, year = {1991} }