@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009610, author = {建部, 謙治}, month = {Dec}, note = {本論文は、画像処理技術を応用して歩行行動を分析する手法を確立すると共に歩行者が進路上にある障害物を回避し始める地点の数理的判定方法を検討している。さらにこの判定基準に基づいて回避行動開始時の歩行者と障害物との距離を定量的に求め、障害物の種類による歩行行動への影響を統計的に検討している。また、この結果を利用して簡単な回避歩行モデルを提案し若干の考察を行っている。本論文は大きく五章からなるが以下に各章ごとにその概要を述べる。序論は、研究の目的とその意義、実験調査方法について述べている。従来の建築空間・都市空間の設計においては、測定可能な指標を設計目標に据え、心理的な満足感やその反対の圧迫感というような質的な指標は測定が非常に困難であることを理由に切り捨てられてきた。しかし、種々の測定技術の向上により、主に心理的な影響を受ける量を測定できる状況が作られつつある現状では、人間が心理的に必要としている条件も合わせた空間設計を進めていくことが求められる。こうした状況にあって、歩行者の行動と歩行者を取りまく周辺環境の相互関係を明らかにする研究が進めば、心理量が歩行に及ぼす影響を独立に評価できるようになり、快適性等を考慮した歩行空間のあり方も明確になると考えられる。しかし、歩行行動の中でも直進する歩行に次いで基本的な回避行動ですら、既往の研究の中で周辺環境の歩行者に及ぼす影響が充分に明らかにされているとは言いがたい。この行動は心理的な影響を大きく受ける行動であるので、歩行の研究の進展には欠かせない対象となる。そこで本研究では単独歩行者の障害物回避行動に的をしぼり、障害物による歩行行動への影響について分析を行うものである。単独歩行者への心理的な影響を指標化するにあたって、これを説明する有力な概念には歩行者の回りに形成される領域がある。この領域は意識や行動の動機付けとなるもので他者との距離を決定する上で重要な働きを持つものと考えられる。本研究ではこの領域の寸法、とりわけ歩行者前方の寸法を定量的に捉える必要があるとの判断から、まず回避を始める地点での歩行者と障害物の距離、前方回避距離を定量化することとした。この前方回避距離を障害物ごとに計測し、障害物の種類によってどのように歩行行動に影響を受けるのかを明らかにする。研究方法としては、フィールドにおける一般歩行者を対象とした調査を行い、いくつかの障害物に対する単独歩行者の前方回避距離を実測することにした。第一章は、ビデオ映像として記録された歩行者の動きを画像処理し、かつ行動分析に利用できるようにデータを加工するための過程について検討している。この過程は、画像の二値化により頭部だけを選択的に抽出し、その位置の時間変化を求める部分と、画像データおよびその処理作業に内包される雑音を取り除いて、歩行者の動きの分析に用いることができるものに加工する部分の二つに分かれる。本章では主に後者の過程を扱い、録画されたビデオ映像から、画像処理装置を利用し、座標変換および歩行軌跡データのローパスフィルターによる処理を行うことによって、歩行における頭部の軌跡を自動的に一定の精度で計測する方法を構築した。また、これに基づいて2種類の歩行実験・調査を対象にして歩行の軌跡・速度・加速度について解析した。街路歩行の特性の分析では、x (前後)方向に2.0Hz前後、y(左右)方向に1.0Hz前後の歩行特有の周期的な動きがある。L字型廊下での折れ曲がり歩行と街路歩行を比較すると、カットオフ振動数1.2Hzのローパスフィルター処理後のデータから求められるy方向の最大加速度が、L字型廊下歩行では街路歩行の約1.4倍となることを明らかにした。このように画像処理を応用することによって計測者に依存することなく、また大幅なデータ解析の作業量の軽減を図って歩行行動の分析が可能となる。第二章は、歩行者が進路上に置かれた障害物を避ける行動を対象に、従来の測定者の主観的判断によるものではなく、数理的に回避行動開始点を判定する方法を検討している。歩行調査は、通路上に障害物がある場合と、無い場合(自由歩行)について行い、両者の軌跡の比較から回避歩行が行われたと判断される歩行(回避歩行)軌跡を選定し、回避歩行の特性を明らかにした。回避歩行では障害物とのすれ違いまでに2つの曲がりがあり、進路を変更する回避行動開始点での「曲がりI」と、すれ違い付近で進路を再修正する「曲がりⅡ」とからなることを示した。曲がりのためのy方向の最大加速度は曲がりⅠに比べて曲がりⅡの方が大きい。こうした知見を踏まえ曲がりⅠの判定方法を検討した。判定基準は、①y方向の変位量による方法、②y方向の速度変化に着目した方法、③y方向の最大加速度による方法、④歩行軌跡の曲率による方法の4つとし、軌跡データを、a)カットオフ振動数1.2Hzのローパスフィル・ター処理後のもの、b)カットオフ振動数1.2Hzのローパスフィルター処理後さらに歩行者固有のy方向の周期で移動平均したものの2種類について、それぞれの特性及び関係を分析した。この結果、回避行動開始点の判断基準として、カットオフ振動数1.2Hzのローパスフィルター処理後さらに歩行者固有のy方向の周期で移動平均した軌跡データの曲率による方法が最も適当であるとの結論を得た。第三章は、静止した障害物に対する回避行動の観測データの分析に基づいて前方回避距離を計測している。実験調査は、静止した物体<モノ>と「ヒト」を障害物とした。ヒトの場合、さらにその身体の向きで<前向き>、<後ろ向き>、<横向き>の3種類とし、計4種類の障害物に対する回避行動を調査した。解析では回避行動開始点をカットオフ振動数1.2Hzのローパスフィルター処理後さらに移動平均した軌跡データについて曲率の判定基準による方法で判定し、この判定位置と障害物との距離である前方回避距離を求めた。解析の結果、歩行者は障害物の種類によって回避行動を開始する距離を決定していることが分かった。障害物がヒトの場合、身体の向きが歩行行動に影響する。前方回避距離は身体の向きが、<ヒト後向>、<ヒト横向後方回避>、<ヒト前向>の順に大きくなり、それぞれの平均値は6.74m、6.82m, 8.84mである。また、障害物が人間と同じ高さ、幅を持つ物体の前方回避距離の平均は7.34mで、<ヒト後向>、<ヒト横向後方回避>より大きく、<ヒト前向>よりも小さい。さらに、同じ障害物であれば通路幅員などの歩行環境や調査時期が多少変化しても前方回避距離は変わらないことを他の実験調査結果との比較から明らかにしている。第四章は、前章で行った静止した障害物に対して、移動する障害物を対象としてその前方回避距離を計測している。実験は、障害物である静止したヒトが歩行者がある地点を通過した時点に移動を開始する方法とした。ヒトの向きは前向きと後ろ向きの2種類とし、前向きの場合は移動を開始する地点を3種類とした。障害物が移動する「前向のヒト」と「後向のヒト」の二つの実験ケースを解析した結果、以下のことが明らかになった。歩行者の回避行動特性として、歩行速度は定速で推移し、歩行軌跡に関する全体的傾向は静止した障害物と同様な傾向を示す。前方回避距離は「前向のヒト」と「後向のヒト」のいずれも、障害物であるヒトが定速で移動していても、静止した障害物の場合の前方回避距離と変わらない。歩行者が回避行動を開始する距離は障害物が静止、移動にかかわらず前方回避距離の平均値が7m~9mになった場合である。この距離は、既往研究での他人の接近にともなう心理的・生理的影響が強くなる距離と一致している。第五章は、第三章と第四章で得られた障害物別の前方回避距離とその知見に基づき簡単な回避歩行モデルをたて、その考察を行っている。モデルは歩行者自身と障害物の領域の2つの大きさで前方回避距離が規定されると考えたものである。すなわち、歩行者は自分自身の領域を確保し、かつ対向者(障害物)の領域を必要以上に侵さないことで相互の心理的影響を軽減するために、領域の先端はいわゆるセンサーのような機能を持っていて、歩行者と対向者の領域の先端が触れることによって回避行動が開始されると考える。さらに、回避行動中には領域のセンサー機能(衝突領域)は必要なくなり、これに変わって群集歩行でも確保される基本領域がすれ違い地点の側方距離を決めることになるというものである。このモデルに基づく歩行者の領域の大きさは前方長さが4.4m、後方長さが2.4m、側方長さが2.3mである。障害物が物体の場合もヒトと同様に領域が存在するとし、今回使用した直方体(幅0.5m、高さ1.7m)の場合には領域の前方長さは2.9mで、歩行者の領域の側方長さおよび後方長さとはほぼ同じであった。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (論文) 学位授与年月日:平成5年12月28日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {歩行時回避行動の画像処理による分析的研究}, year = {1993} }