@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009661, author = {兼松, 秀行}, month = {Feb}, note = {Al-Zn-Mg合金は軽量でしかも高い強度,良好な溶接性を有するために構造用材料としても用いられる. しかし塩素イオンを含む温水中など種々の環境中において応力腐食剤れを起こすことが問題となっており,その利用を阻む原因となってきた. このため数多くの研究がこれまでに行われ,若干の工業的対策がたてられてきた. しかしその多くが耐応力腐食割れ性を向上させるかわりに,強度など他の特性を低下させるような方法をとっているため,より有効な耐応力腐食割れ性向上には根本的な対策が急務となっている. それには現在未だ未解決の部分が多い応力腐食割れのメカニズムについての材料学的思考と重畳された電気化学的な研究が望まれている.このような背景から本研究はAl-Zn-Mg合金の応力腐食剤れのメカニズムの解明を目的として,主として電気化学的な観点から検討を行った。試験法としては一定の低い歪速度(1.85×10^{-7}~1.85×10^{-5}s^{-1})で試験片が破壊するまで荷重を付加する加速試験として知られる低歪速度法(SSRT法)を用いた. 試験環境としては主として0.6kmol/m^3のNaCl溶液中NaSO_4溶液,また実験室雰囲気中(大気中),真空中を用いた。これら溶液中における試験では,あらかじめ試料の分極挙動を測定し,得られた孔食領域,不完全不働態領域,完全不働態領域など各種特性電位領域に電位を保持しながらSSRT試験を行う定電位低歪速度試験法(PSSRT法)を用いた. この方法により試験中の試験片の溶液中における電位は常に一定に保たれるため,溶液中の各因子(塩化物イオン,水素イオン.溶存酸素など)の応力腐食割れに及ぼす影響を電気化学的により正確に調整して実験検討することができた. また応力腐食割れ性状の評価は,試験片の応力ー歪挙動と共に走査型電子顕微鏡(SEM)によりその破面を観察することにより行った.各章の結果を要約すると次の通りである. 第1章においてはこれまでのAl-Zn-Mg合金の応力腐食割れに関する研究を材料学的,破壊力学的,電気化学的研究に分類し紹介した. あわせて従来の工業的対策にも触れた. 第2章においては溶体化処理,ピーク時効処理,過時効処理を施した3種類のAl-Zn-Mg合金のそれぞれの粒界部,粒内部の分極測定.界面インピーダンス測定等の電気化学的測定,あるいはSEM観察などによりそれぞれの試料の表面状態を解析した. これら試料は塩化物イオンによる孔食により粒内部が溶解したが粒界は溶け残り,その傾向はピーク時効材において最も顕著であった.インピーダンス測定から算出した皮膜容量の値はすべての試料について粒界部のほうが高く,粒界部と粒内部の容量値の差はピーク時効材,容体化材,過時効材の順に小さくなった.一方ピーク時効材の酸化皮膜を厚く生成させると粒界部が粒内部に比べて薄く生成しているのが観察された.以上の結果から表面酸化皮膜は粒界部の方が粒内部に比べて薄いことがわかり,その差はピーク時効材が最も大きく,容体化材、過時効材の順に小さくなると推定された。熱処理により粒界,粒内の皮膜厚さが変化する理由は次のように考えられる.容体化材においては亜鉛,マグネシウムなどの合金成分は均一に固溶しているが粒界は活性であるため,皮膜生成反応が粒内に比べて強く起こり,緻密で薄い皮膜が生成する.ピーク時効材は亜鉛,マグネシウム等の合金成分が粒界近傍においてMgZn_2として時効析出するため粒界部の亜鉛,マグネシウム成分が減少し,その結果粒界部の皮膜は粒内部に比べて緻密で薄く生成しその差は極めて大きい.過時効材になると,粒内にも時効析出が起こるため,粒内部の皮膜も緻密で薄く生成するようになり,粒界部と粒内部の皮膜の差が小さくなる.第3章においてはピーク強度を有する二段時効Al-Zn-Mg合金を0.6mol/m^3NaCl溶液中の孤食領域,不完全不働態領域,完全不働態領域でPSSRT試験した.孤食領域では試料表面から粒内割れが起こり,き裂が試料内部へ進展するにつれて粒界割れ,ディンプル割れと変化した.き裂発生時に生成する表面近傍の粒内割れは歪速度が遅いほうがより顕著に認められた.一方不働態領域では不完全不働態領域において稀に表面近傍に粒内割れが認められる場合を除いては,表面から粒界割れが起こり,内部にき裂が進展するとディンプルへと変化した.応力を付加すると孤食電位が卑にシフトするため,不完全不働態領域においても応力付加により孤食領域と同様の粒内割れが起こることがあるものと考えられる.しかしより卑な完全不働態領域においては粒内割れは全く認められず,不働態領域の破面形態は,表面から内部へ粒界割れ,ディンプルと変化するのが特徴と言える.Al-Zn-Mg合金の孤食は粒内に発生することから、孤食領域において見られる粒内割れは孤食により誘起される割れと考えられる.一方不働態領域においては孤食溶解は起こらず、表面には酸化皮膜が生成している.前章ですでに示したようにピーク時効材においては粒界部の酸化皮膜は粒内部のそれよりも著しく薄いため,応力が付加されると薄い粒界部の酸化皮膜がノッチとなり粒界割れとなるものと考えられる. したがって各電位領域における破面形態の変化はそれぞれ次のように考えることができる. 孔食領域においては表面において孔食により粒内割れが起こり,き裂が内部へ進展するとき裂先端への塩化物イオンの拡散が遅れ,粒界部において不働態化し,粒界にそって酸化皮膜の生成-破壊を繰り返すことにより粒界割れがおこる. さらにき裂が内部へすすむと酸化皮膜の生成-破壊が追いつかなくなり機械的に破壊してディンプルとなる. 一方不働態領域においては孔食溶解は起こらないため,表面から粒界にそった酸化皮膜の生成-破壊を繰り返すことにより粒界割れが起こり,内部へすすむと機械的に破壊してディンプルとなる. 第4章においては溶体化処理,ピーク時効処理,過時効処理を施した3種類のAl-Zn-Mg合金について0.6kmol/m^3NaCl溶液中においてPSSRT試験を行い,分極挙動と比較検討した. いずれの試料も前章の結果と同様に孔食領域では試料表面から内部へ粒内割れ,粒界割れ,ディンプルと変化し,不働態領域では粒界割れ,ディンプルと変化した. 溶体化材,ピーク時効材は粒界割れが多く認められたが,過時効材においては粒界割れが最も起こりにくく,ディンプルの割合が増加した. 熱処理により粒界割れが起こりにくくなる理由としては次のように考えられる. 前章の結果より粒界割れは薄い粒界部の酸化皮膜がノッチとなって破壊することによるものと考えられるが,粒界部と粒内部の酸化皮膜の厚さの差は第2章の結果よりピーク時効材,溶体化材,過時効材の順に小さくなる. ピーク時効材,溶体化材の粒界と粒内ではノッチ効果を起こすのに十分な皮膜厚さの差があるが,過時効材では差が極めて小さくなり粒界割れが起こりにくくなるものと考えられる. 第5章においては合金成分の異なる3種類のAl-Zn-Mg 合金(ピーク時効)について0.6kmol/m^3NaCl 溶液中において応力腐食割れ試験を行い分極挙動と比較検討した. 試料(A)は亜鉛,マグネシウム以外に鋼をわずかに含み,試料(B)は銅のかわりにマンガンが添加されている. また試料(C)はマンガン,ジルコニウム,クロム等が複合添加されており応力腐食割れ感受性が低い材料である. 試料(A)と試料(B)は孔食領域において破面が試料表面から内部に向かって粒内割れ,粒界割れ,ディンプルと変化し,不働態領域においては表面から粒界割れ,ディンプルと変化した. 一方試料(C)は孔食領域においては試料表面から内部へ粒内割れ,ディンプルと変化し,不働態領域では粒界割れは認められずディンプルのみの破面となった. 試料(C)において粒界割れが起こりにくいのはマンガン,ジルコニウム,クロム等の合金元素が添加されることにより,皮膜が均一に生成し,粒界部と粒内部の皮膜の厚さの差が小さくなるためと考えられる. 第6章においては前章同様3種類のピーク強度を有するAl-Zn-Mg合金の大気中,真空中における破面形態を0.6kmol/m^3NaCl溶液中の結果と比較検討した. 試料(A) ,試料(B)については不働態領域の破面形態と同様に,大気中においても表面から内部に向かって粒界割れ,ディンプルが観察された. 試料(A)については歪速度の変化(1.85×10^{-7}~2.31×10^{-2}s^{~1})により粒界割れ,ディンプルの割合の変化は認められなかったが,試料(B)については低歪速度の場合(9.26×10^{-3}s^{-1})に比べて高歪速度のときに(4.63×10^{-7}s^{-1})粒界割れが減少しディンプルが増加した. 試料(C)は不働態領域の場合と同様にディンプルのみの破面となった(歪速度:4.63×10^{-7}s^{-1}). しかし真空中の試験においては(A)の試料についても粒界割れが減少しディンプルが増加し(歪速度: 4.63×10^{-7}s^{-1}),この傾向は真空度が増加するにつれて著しくなった1.33Pa~1.33×10^{-1}Pa) ,以上の結果から合金成分の添加により粒界割れは試料(A),(B),(C)の順に起こりにくく,これは前章においてすでに示したように粒界,粒内の酸化皮膜の厚さの差が合金元素の添加により小さくなり均一な皮膜が生成するためと考えられる. また粒界割れは歪速度が速いほど起こりにくく,これは酸化皮膜の生成-割れが追いつかず機械的なディンプル割れが多くなるためと考えられる. 粒界割れの最も超こりやすい試料(A)は真空中においては低歪速度においても(4.63×10^{-7}s^{-1}) 粒界割れは起こりにくくなりディンプルが増加したが,これは酸化皮膜の成長が真空中では抑制されるためと考えられる. 第7章においては比較のために鋭敏化ステンレス鋼SUS304について0.6kmol/m^3NaCl溶液中,Na_2SO_4溶液中,大気中,真空中においてAl-Zn-Mg合金と同様の試験を行い,破面形態と環境の関係を比較した. その結果NaCl溶液中の孔食領域においては表面から内部に向かって粒内割れ,粒界割れ,ディンプル,不働態領域では粒界割れ,ディンプル(中間に粒界割れのおこらない電位が存在),さらに卑な水素発生領域では粒内割れ,拉界割れ,ディンプルとなり,また大気中においては粒界割れ,ディンプルとなり高歪速度(1.85×10^{-5}s^{-1})では低歪速度(1.85×10^{-6}s^{-1})に比較して粒界割れが減少する傾向が認められた. また真空中では低歪速度(1.85×10^{-6}s^{-1})においても粒界割れは認められず,ディンプルのみの破面となった. 不働態領域の一部,水素発生電位において若干の相違は認められるが,環境と破面形態の関係においてAl-Zn-Mg合金と鋭敏化304鋼はよく似ており粒界割れがおこる材料では酸化皮膜が強く関係していることが観察された. 以上の研究により推定されるAl-Zn-Mg合金の応力腐食剤れのメカニズムは次の通りである. Al-Zn-Mg合金の応力腐食割れは初期発生時に着目すると粒内割れと粒界割れを起こす場合にそれぞれ分類される.粒内割れは孤食が起こるときのみ観察され,孔食により引き起こされる.粒界割れは粒界部と粒内部の酸化皮膜厚さが著しく異なるときに薄い粒界部がノッチとなり発生し,粒界部に沿った酸化皮膜の破壊-生成-成長の繰り返しにより起こる.またそのき裂の進展は材料表面から内部へ,NaCl溶液中の孔食領域においては粒内割れ,粒界割れ,ディンプル,NaCl溶液中の不働態領域,大気中においては粒界割れ,ディンプルと変化し,熱処理,合金添加などにより酸化皮膜が均一に生成するような場合や真空中のような酸化皮膜の生成,成長が抑えられる条件下では粒界割れが減少し,ディンプルが増加することが明らかとなった., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:工学博士 (課程) 学位授与年月日:平成1年2月28日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {Al-Zn-Mg合金の応力腐食割れに関する電気化学的研究}, year = {1989} }