@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009675, author = {佐川, 雄二}, month = {Jan}, note = {我々が日常使用している自然言語は、他者とのコミュニケーションにおいて主要な役割を果たしている。そのような慣れ親しんだ自然言語を人間と計算機とのコミュニケーションに用いることを可能にすることが自然言語インターフェイス研究の目的である。この分野は、最近十数年間盛んに研究され、さまざまな課題を残しながらも、対話の対象領域を限定したり、書き言葉のような丁寧な文を用いた場合には、ある程度の対話を実現できるようになりつつある。効率の良い対話を理想とする限り、対話の媒体は実音声であることが望ましい。しかし、音声認識技術の問題などもあり、従来の自然言語対話システムは音声ではなくキーボードとディスプレイを媒体としているものがほとんどである。キーボードから入力する文は、どちらかというと書き言葉に近い。我々の日常の言語使用を観察すると、書き言葉と話し言葉では多くの面で異なる性質を持っていることがわかる。したがって従来の自然言語対話システム構築技術をそのまま実音声対話システムに応用するのは難しいことが予測される。このような反省から、最近になって実音声入力を目指し、音声認識技術と自然言語処理技術を融合しようとする試みが始まっている。これらは片方の技術だけで完全に解決できない問題を他方の技術を用いた手がかりによって解決しようとする流れである。例えば、構文のあいまいさを韻律情報を用いて絞り込んだり、逆に音声認識のあいまいさを構文情報を用いて絞り込んだりすることができる。このような現象とは別に、話し言葉になることによって書き言葉と質的に異なってくるのが、誤りを始めとする不適格な表現の頻度である。ここで不適格な表現とは、誤りまでとはいえないまでも、他に適切な表現があるような表現も含む不適格な表現を含む文を不適格文と呼ぶ。書き言葉やキーボード入力では、発話を構成するための時間が十分あるため、不適格な表現が現れることは比較的少ない。しかし、話し言葉ではその頻度は非常に多く、またその種類もさまざまである。ところが、ある程度までの不適格文なら人間の聞き手は、前後の文脈などから本来話者の伝えたかった内容を推論し理解することができる。また、ある程度聞き返さなければならない場合でも、何をどのように聞き返すか組み立てることができ、対話を効率良く進めることができる。仮にこのような能力を持たない聞き手を仮定すると、不適格文が現れるたびに聞き返してくるため、対話の大部分は聞き返しとそれへの返答が占めてしまい、効率の良い対話は望めない。従来の自然言語対話システムは、ほとんどこの「柔軟さに欠ける」、言い換えれば「ロバストでない」聞き手に近い。このような状況を打破し、実音声による自然言語対話システムを実現するために不可欠な技術の一つとして、不適格文に対して適切に対応する能力を自然言語対話システムにおいて実現することが本研究の目的である。また、不適格性が発生する原因はさまざまであり、人間の聞き手が許容することのできる不適格文にも、単なる単語の言い間違いから、構文の誤りやわかりにくさ、文の含む情報の誤りまでさまざまなものがある。本研究では、これらを整理し、なるべく広範囲に扱うことを目的とする。不適格文に適切に対応するためには、以下の能力が必要である。1.不適格性を検出する能力 2.正しい意味を推論する能力 3.聞き返しの対話を適切に組み立てる能力 3に関連する能力として、一般に対話をどう組み立てるか(対話のプランニング)に関する知識をシステムは持たなければならない。人間はこの能力を持っているので、人間どうしの対話は普通各参与者がイニシャティブを取り合いながら進む。これは仮に誰かが不適格な発話を行なった時に、それ以降の対話をどう組み立てるか計画する際に不可欠である。なぜならそのためには以下のことを知っている必要があるからである。● この対話の目的は何か●現在まで何が話され、何が話されていないか ●相手の発話はこの対話にどう影響するか ●その影響が対話の目的の障害となる場合、どのようにそれを除去できるか これらを実現するため、本研究では不適格文への対応も考慮した対話のプランニングの手法についても検討する。さらに不適格文の解析手法の音声対話システム以外への応用として人間の話したり書いたりした文章の添削もしくは添削支援システムが考えられる。本研究では、従来の添削システムでとらえることのできない文の「わかりにくさ」に焦点を当て、議論する。第2章でまず、対話システム構築の際に問題となる不適格性について、対話システムを構築する観点から整理し、分類する。その結果、話者自身による言い直しである自己修復にともなう不適格性、修飾構造のあいまいさおよびわかりにくさ、ユーザの誤解にともなう対話の目的を逸脱した発話内容の3種類を本研究の対象とすることを決定する。これはそれらが対話において出現する頻度および対話に与える重要度を基に選択されたものである。第3章では、第1の対象である自己修復文について考察する。自己修復は自然な対話においては、非常に頻繁に行なわれ、話者自身もそれに気づかないこともあるほど自然な現象であるが、自己修復文の構造は、従来の文法を大きく逸脱しており、深刻な不適格性を含んでいることを指摘する。つづいて自己修復文の特性を調べるため行なった、ラジオ番組より採取した対話コーパスに基づく分析結果について述べる。その結果、自己修復にともなって出現する繰り返しに着目することで、比較的簡単な方法で多数の自己修復文の不適格性を除去できることを示す。そしてその方法により自己修復文を自己修復を含まない適格文に変換することで特別な文法を持つことなく構文解析を行なうパーザを提案する。最後にそのパーザの有効性を検証するために、分析に用いたコーパスと異なるコーパスより取った自己修復文に対する評価実験を行なった結果について述べる。その結果分析用に用いた文と同程度の文を構文解析できたことを示す。第4章では、修飾構造のあいまいさ、わかりにくさについて考察する。良い文の構造に関する知識をいくつかのヒューリスティクスとして実現し、それらを用いて、修飾構造のあいまいさ、わかりにくさを指摘する添削支援システムについて述べる。システムは入力された文を構文解析し、さらに意味解析も行なって、知識に基づいた添削を行なう。あいまいさに関しては、その存在を指摘し、わかりにくさについてはその存在だけでなく、システムの持つ知識を用いて生成した、よりわかりやすいと思われる修正案も提示することで、より使いやすい添削支援システムとなっている。また、システムの有効性を検証するため行なった、実際の書物より引用した文章を用いた評価実験の結果についても触れる。システムの添削結果と人間の行なった添削結果を比較した結果、人間が指摘した文はシステムも残らず指摘しており、添削支援システムとして望ましい「とりこぼしはしない」という性質を持つシステムとして実現されていることが確認された。さらに、人間がさまざまな知識を用いて修飾構造を理解しているということから、修飾構造のあいまいさ・わかりにくさと専門知識との関係についても考察し、いくぶん専門的な説明文においては、専門知識のあるものにとっては問題なく理解できても、専門知識のないものにとってはあいまいもしくはわかりにくい修飾構造がしばしば存在することを指摘する。このような文を避けるためには、本研究で作成した添削支援システムを専門知識を除いた一般的な知識のみを組み込んだ状態で使用すると有効である。第5章では、ユーザの誤解に対する対応について考察し、それを実現した対話システムの概要について述べる。このような複雑な不適格性を取り扱うには、すでに述べたように対話の目的をはじめ、対話の状態に関する知識が必要である。本研究ではこれを実現するため、対話ブランと呼ばれる対話の進め方に関するプランニング知識を導入する。それにより対話システム自身に対話をコントロールする能力を与えることができる。つづいてユーザの誤解が、単にそれを取り除くだけでは済まされない影響を対話に与える場合があることを指摘し、その場合にどうやって対話を継続し目的を達成するかに関する知識を、前述の対話のプランニングのためのプランに対するメタプランとして実現する。最後にこの対話プランおよびメタプランを持ち、さらにユーザの誤解を検出するための信念管理システムを持った対話システムを提案し、期待通りの動作を行なうことを確認した。第6章では、以上の内容を総括し、今後の課題について述べる。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (課程) 学位授与年月日:平成6年1月31日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {ユーザの不適格な対話行動に対してロバストな自然言語対話システムに関する研究}, year = {1994} }