@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009712, author = {KOJIMA, YOICHI}, month = {Mar}, note = {木材細胞壁において,セルロースは高度に結晶化して剛直なミクロフィブリル(CMF)をなす.各ラメラにおいてCMFは規則的に配向し,さらにラメラごとにその配向が異なっていることから木材の力学物性にはCMFの内部構造と物性が大きく反映していると考えられる.さらに,木材細胞壁において,CMFはヘミセルロースとリグニンからなるマトリックス物質に包み込まれているから,木材の力学物性の発現はマトリックス物質の構造および物性も少なからず関与しているだろう.例えば,木材の力学物性には温度および水分が大きく影響する.その作用機序はセルロース,リグニンおよびヘミセルロースといった個々の細胞壁構成要素の分子レベルでの温度・水分物性から還元的に解明されるべきである.細胞壁構成要素の構造や物性については,単離した木材構成成分を用いた研究のほか,藻類や靱皮繊維のCMFから得られた知見をもとに興味深い考察がなされている.しかしながら,そのほとんどが個別的現象論にとどまっており,巨視的レベルで木材が示す種々の力学物性を矛盾なく説明するには至っていない.その最大の理由は,木材細胞壁の分子レベルでの複合構造の理解に不足があること,特にCMFとマトリックス物質との界面構造が実質的には未解明であるということが挙げられる.このような状況においては,分子レベルからのアプローチによって観察・測定データが得られたとしても,それを細胞壁あるいは木材の挙動にまで演繹するようなモデルは組み立てられない.なお木材のレオロジー現象のいくつかはしばしば補強マトリックス仮説によってモデル化される.これは,細胞壁ラメラをCMFの強化相とマトリックス物質の母材相とで二相近時し,両者の力学的相互作用を定めるものである.そういった意味から考えると,細胞(壁)以上のオーダーの現象を記述する解析方法であって,CMFやマトリックスの内部構造や物性について言及するものではない.ところで,補強マトリックス仮説から導かれる木材細胞(壁)モデルには各種パラメータが含まれており,個々の細胞壁構成要素の挙動や物性はこれらの中に分散されて折り込まれている.シミュレーションを行い,結果を観測事実と比較する時に,各種パラメータを合理的に決定しなければならないが,これらの値は細胞壁構成要素のミクロな性質をなんらかの形で示しているはずである.すなわち,パラメータの合理性を検討することによって,CMFやマトリックス物質のさまざまな挙動が,いわば逆解析的に浮かび上がってくるのではないかとも期待できる.以上のことを背景として,本論文では,木材の各種物性と細胞壁微細構造との関連性について研究を行った.各種物性の中でも特に繊維方向の挙動を知ることは大変重要である.なぜなら繊維方向の物理特性は細胞壁構成要素の特徴を直接反映しているためである.本研究においては,繊維方向の弾性的性質および粘弾性的性質に焦点を絞って研究を進めてきた.第1章では,木材の持つ各種物性(弾性的性質,粘弾性的性質)に関するこれまでの研究についてまとめた.第2章では,単離した木部繊維の繊維方向ヤング率を記述するためのモデルを構築し,木材の弾性的性質に関するいくつかのケーススタディーを行った.従来,繊維方向ヤング率の含水率依存性は主に細胞壁構成要素の中のマトリックス物質の水分物性によって支配されていると考えられてきたが,提案したモデルを用いてシミュレーションを行ったところ,マトリックス物質のヤング率の値として不合理な値を設定しなければならないことが明らかとなった.これを回避するために,細胞壁構成要素であるCMFの構造についてある仮説を提案した.それは,「細胞壁中のCMFが安定な結晶相,安定な非晶相,不安定な相の3相からなる」という仮説である.不安定な相のセルロースは乾燥状態では力学的に見て結晶と同じである(擬結晶状態)が,その内部の水素結合は侵入してきた水分子によって容易に断ち切られ,水を含んだ状態では非晶状態とふるまうもの(擬非晶状態)とする.このイ反説に基づいてシミュレーションを行った場合,繊維方向ヤング率の含水率依存性は定量的に説明可能となった.その佃にも考えられうる仮説を提案したが,次章において否定された.第3章では,第2章で提案した繊維方向ヤング率の含水率依存性を説明する仮説の整合性を実験的・理論的両観点から検討した.本研究に用いた細胞モデルは一本の木部繊維を模式化したものであるために,よりモデルに近い形状の試験片を用いた実測が必要となる.そこで,スギ早材部位からスライディングミクロトームを用いて均一な薄試験片を採取し,これを繊維細胞モデルに近似しうるものと考えて,繊維方向ヤング率の含水率依存性を実測した.測定された繊維方向ヤング率は低含水率領域では非常に高く,水分吸着に伴ってその値は減少していき,繊維飽和点以上の高含水率域で一定となる典型的な含水率依存性を示した.また第2章で提案した仮説の一つである「木材細胞壁中のマトリックス物質のヤング率は単離して測定された値よりも全乾状態で数倍大きくなっている」ということの是非をも検討するために,水分吸着による繊維方向ヤング率の減少率をMFAとの関連で測定した.もし,この仮設が正しいならば,ヤング率の減少率はMFAが小さな試験片よりもMFAが大きい場合においてより顕著になるはずである.しかしながら,ヤング率の減少率はMFAの大きさに関係なくほぼ一定,もしくはMFAが小さい場合の方が顕著であるという結果が得られた.この結果は「木材細胞壁中のマトリックス物質のヤング率は単離して測定された値よりも全乾状態で数倍大きくなっている」という仮説を否定するものであると考えた.また,本研究で測定した繊維方向ヤング率の含水率依存性の実測結果を細胞モデルを用いたシミュレーションにより検討したところ,細胞壁中のCMFに「不安定な相」を仮定することで定量的に実測結果を説明することが可能であり,逆に,不安定な相の存在を仮定せずにシミュレーションを行った場合は実測結果を説明することは不可能となることが明らかとなった.以上の結果から,木材細胞壁を構成しているCMFには安定な結晶と安定な非晶との中間状態としての「不安定な相」が存在しているという結論を得た.ここまでの研究は木材を弾性体と捉え,繊維方向ヤング率に注目して細胞壁微細構造と関連付けて考察を行ってきた.なお,木材を建築や家具部材として用いる場合に粘弾性挙動を明らかにしておくことは大変重要なことである.しかしながらこれまでの研究において,繊維方向引張における粘弾性挙動の報告はほとんどない.つまり繊維方向引張における粘弾性挙動と細胞壁微細構造との関連性はほとんど未解明のままにおかれている.そこで,第4章では,スギ早材部位から採取したミクロトーム試験片を用いて繊維方向引張クリープ挙動を実測し,細胞壁微細構造との関連で考察を行った.従来報告されている曲げ試験や横圧縮試験による結果と同様に,繊維方向引張クリープ挙動は負荷と同時に瞬間コンプライアンス(瞬間変形)を生じ,その後,時間経過に伴って変形が増加して,数百時間後には一定となった.また繊維方向引張クリープ挙動のMFA依存性および含水率依存性を検討した結果,両者に対し高い依存性を示すことが明らかとなった.その原因として,繊椎方向引張における物理的挙動は細胞壁構成要素の性質とそれらの空間的配置のあり方を直接的に反映することが挙げられる.つまり,MFAが小さい木部繊維の場合には,繊維方向の物性は主に水分の影響を受けないであろうCMFの挙動を直接に反映し,クリープ変形量は小さくなる.一方,MFAが大きい場合にはCMFの影響が小さくなり,水分の影響を受けやすいマトリックス物質の影響が顕著となる.そのためにクリープ変形量はMFAが小さい場合に比べ数倍以上にも大きくなると考えられる.また,粘弾性モデルを用いた解析ではモデルを構成する個々のパラメータがMFAと含水率の両者に強く依存することが分かった.しかしながら,用いた粘弾性モデルではパラメータの値は決定できても,それらと現実の細胞壁構成要素との対応関係は必ずしも明確ではない.今後,現実の木部繊維の構造に近い力学モデルを用いることによって個々の細胞壁構成要素の粘弾性挙動を明らかにしていく必要がある.第3章で導入・定式化した多層木部繊維モデルがその契機となるものと期待する.本研究では,木材の繊維方向の力学物性と細胞壁微細構造との関連性について実験および理論的手法を用いて考察を行い,細胞壁構成要素の性質を明らかにした.本論文で提案した研究手法と,それを用いることによって得られた結果は,木材の持つより多くの性質を統一的に説明できるモデルの構築と,それを用いることでCMF,マトリックス物質の微細構造と物性および両者の界面構造のあり方を解明する研究へと直接につながるものと期待される., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(農学) (課程) 学位授与年月日:平成16年3月25日}, school = {名古屋大学, NAGOYA University}, title = {Studies on the physical properties of wood in relation to the fine structures of cell wall}, year = {2004} }