@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009721, author = {高野, 研一}, month = {Jan}, note = {原子力プラントの社会的信頼感、いわゆるパブリックアクセプタンスの獲得は原子力開発全般に係わる重要な課題であり、今後の方向性・発展性を決定づける上でも真摯な取組みが望まれている。信頼感の醸成を左右する要因は多岐に渡るが、原子力プラントにおけるトラブルの低減への努力もひとつの有力なアプローチである。このため、信頼性や安全性の向上を目指して、1970年代から80年代初頭にかけては、設計・材料・機器・部品の改良や標準化が図られるなど主にハードウェア面での著しい技術進歩により、トラブルの発生率は当初の1/4程度に急減した。しかしながら、原子力プラントに限らず過去の重大事故のほとんどが深夜から早朝にかけてのオペレータの覚醒水準が最も低下する時間帯に集中していること、およびヒューマンエラーが関与したトラブルが依然として横這いを続けていることなどの事実は、プラントの運用・保守に係わるヒューマンファククーの重要性を示唆している。これまで、原子力プラントの運転操作を対象としたヒューマンファククー研究においては、主に確率論的リスク評価のための人間信頼性研究や制御盤改良研究が優先されてきた経緯にあり、これらの研究においては、オペレータの生理・心理状態や思考過程などの人間特性はブラックボックスとして扱われてきた。しかし、作業信頼性に多大な影響を与えるオペレータの内面的な人間特性に踏み込んだ研究は、ヒューマンエラーの発生メカニズムの解明を通じたエラー防止対策の立案という観点からきわめて重要となるにもかかわらず、これまで取組みが不十分であった。本研究は、オペレータの人間特性がどのように作用してヒューマンエラーの発生に結びつくかについて多角的な問題解決の手段を提供しようとしたものである。そのため、これまで人間研究の基盤として長い歴史的背景を持つ人間工学、労働科学および心理学などの既存の学問領域で用いられてきた手法を調査し、それらの手法の有効性と適用性を評価することにより、「トラブル分析手法」、「生体情報評価手法」および「シミュレーション手法」を選択した。すなわち、第一に「トラブル分析手法」の開発とその適用により、過去、制御室で発生したトラブルに人間特性がどのように関与していたかについて事実関係に立脚した調査・分析を行う。第二に、実際的な諸問題を具体化し、因果関係が明確でないものについては、「生体情報評価手法」を中核とした実験的手段により分析・評価を行い、それらのメカニズムや影響過程についての知見を得る。さらに、実験的手段では適用対象および範囲が極めて限定されてしまうため、最後に「シミュレーション手法」を適用して、新たな対策の有効性やその効果の予測を行うといった手段である。本研究は、これらの手段について創意と最新の技術を適用して、実用的なレベルで活用するための開発および実験研究を実施した結果を取りまとめたものであり、得られた結論を以下に総括する。第1章では、原子力プラントを対象としたヒューマンファクター研究の背景と課題および本研究の目的と概要について述べた。第2章では、原子力プラントのオペレータを取り巻く諸問題を事例調査とアンケート調査の結果から抽出し、それを解決するための手段の現状について述べた。第3章では、原子力プラントを対象とした「トラブル分析手法」として、これまで系統的で実用的な手法が提供されてこなかったことから、様々な特徴を有する新たな手法の開発について述べた。この手法の主な特徴は、①プラント職員が自主研究的に分析できるようにするための実施手順を作成した、②生理・心理状態などの内的要因を含めた原因を系統的に分析できる手法である、③具体的な対策を提案できる対策指向の手法である、などであり、実際のプラント現場で発生したヒューマンエラー絡みのトラブルを体系的に分析・評価することができる。また、この手法を利用することにより、これまで見落とされがちであったソフト面の原因(内的要因、手順書、管理監督など)を確実に指摘でき、さらに階層的かつ具体的な諸対策を提案できることを明らかにした。さらに、この手法を一層実用的なものとし、プラントサイトで定着化させるためには、トラブル発生時に迅速かつ機敏に対応することが求められるため、パソコンを利用した分析支援システムを開発した。この分析支援システムでは、開発したトラブル分析手法に準拠して、実施手順における実施事項を具体的な設問に置き換え、それをシステム化することにより、「分析の合理化」、「関連情報の体系的提供」、「手法習得の容易化」およびパソコン機種に捉われない「汎用性の確保」を実現した。この分析支援システムの開発により、分析に要する時間および手法の習得に要する時間が大幅に軽減できることが明らかとなった。第4章では、オペレータの作業信頼性に与える影響の大きい人間特性として、精神作業負荷および覚醒水準を取り上げ、「生体情報評価手法」を利用した実験的な評価法について述べた。生体情報評価手法を適用するためには、運転操作に携わっているオペレータの生体情報を無拘束かつ無侵襲で連続的に計測し、膨大な量の計測データを効率的に解析する必要がある。このため、任意の生体情報を組み合わせて柔軟な計測・解析を可能とする「生体信号計測システム」および行動情報を併せて計測できる「人間特性総合解析システム」を開発した。また、同システムの性能および適用性を評価した結果、ダイナミックに変動する運転員の生体情報を的確に計測し、解析を行うことが可能となり、運転員の内的要因の影響とそのエラー発生メカニズムの実験的な検討に応用できることを示した。続いて、開発したシステムを用いてオペレータの精神作業負荷および覚醒水準の評価方法について実験的に検討した。その結果、精神作業負荷については、これまでの、①作業時間分析による方法、②自覚症状による方法、③二重課題法などのアウトプット法に加えて、生体情報の一つである皮膚抵抗反射が個人差も少なく有力な指標となりうる可能性を持つことを明らかとした。しかしながら、作業内容によっては、皮膚抵抗反射が発生しない場合もあることから、精神作業負荷の評価精度を向上するためには他の方法と併用する必要があることを示し、その場合には統一的な尺度として、シングルチャネルモデルの定義に基づいたTSF(Time shared fraction)を基準として用い、それぞれの方法で計測された値を換算して評価することが望ましいことを述べた。また、精神作業負荷がパフォーマンスに及ぼす影響を実験的に検討した結果、TSFがおよそ60%を超過した時点で過重な作業要求によるエラーが急速に増大することを示した。続いて、覚醒水準については、生体情報として自律神経系の活動度の指標としての皮膚抵抗水準を選択し、これまでの、①作業の質と量で判断する方法、②自覚症状による方法と実験的に比較検討した結果、運転操作に伴う体動やノイズの影響も少なく中枢神経系の覚醒水準の指標として皮膚抵抗水準が良い指標となることを示した。また、覚醒水準の低下に伴い、信号の見逃し率が有意に高まり、さらに、覚醒水準が低下した状態で予期しない作業が発生した場合、TSFが60%以下の状況においても作業要求の過大によるエラーが増大する傾向が認められた。また、この影響の程度は個人差が大きく関与することが示唆された。第5章では、原子力プラントのオペレータの思考過程および行動シミュレーションモデルの開発について述べた。開発したオペレ一タ行動モデルは、将来的に運転チームとして振る舞わせるための拡張性を考慮していることから、オペレータ間の協調や役割分担を模擬するヒューマン・ヒューマン・インタフェースとの整合性をとるとともに、会話機能を持たせた。このモデルは、情報(発話情報、盤情報)を取り込む注意力マイクロモデル(注意力MM)、得た情報を一時的に蓄えておくバッファーとしての短期記憶、知識ベースを格納する長期記憶、外部から取り入れた情報と長期記憶の情報を融合させて生成したメンタルモデルを蓄える作動記憶、メンタルモデルをもとに発話意図および動作意図の形成を行う思考MM、動作意図を実現する動作MM、発話意図を実現する発話MMから構成される。ここで、開発したメンタルモデルは、訓練センターでの実験結果および経験豊かな実運転員とのインタビューに基づいて作成したものであり、オペレータの思考過程の核となるものである。このメンタルモデルでは、これまでの診断的な機能が主体であった推論機構に加え、状況の切迫性や重大性を加味したプラントの挙動予測を行うことにより緊急的な対応を可能とした。オペレータ行動モデルは、このメンタルモデルによるノレッジ処理を核として、定型的な処理を実行するスキルベース処理部分を加えて、オペレータとしてのダイナミックな振る舞いをシミュレーションするために、オブジェクト指向モデリング技術を利用して設計を行った。オブジェクト指向モデリング技術では、オペレータ行動モデルの個々の機能に着目し、これらの機能を一つのクラスとみなしてモデリングを進める方式であり、オペレータ行動モデル全体の静的な構成を記述するオブジェクトモデル、各クラス内の状態遷移およびクラス間の遷移の様子を示した動的モデル、および各クラス間およびクラス内の情報変換と流れを記述した機能モデルの3種類のモデル図を作成することにより設計を実施した。続いて、オブジェクト指向言語C++およびC言語を利用してプログラミングを行い、エンジニアリングワークステーション上に実装した。プラントモデルはBWR型原子力プラントを簡略化したシミュレータであり、循環水ポンプ機能低下事象および復水回収弁誤開事象を対象に動作確認を実施した。この結果、オペレータ行動モデル内の各クラスの動作過程、発話および動作の発生順序などの思考過程および行動は所期の設計通り動作していることを確認した。第6章は、本研究で得られた結論を総括したものである。本研究成果にもとづく今後の課題として、第一のトラブル分析手法については、一層の分析事例の収集により、実際的なエラー発生のメカニズムについての知見を蓄積し、その発生頻度を含めたモデル化と具体的かつ共通的な防止対策の提言が求められる。また、第二の生体情報評価手法については、現実に近い制御室における実態調査を実施し、心身状態がオペレータの運転性能に与える影響を正確に把握することが求められる。最後に第三の手法については、①第一、第二の手法で得た知見および実際のシミュレータ実験の結果を反映し、より現実の運転員に近いオペレータ行動モデルとして完成すること、②認知科学的な考察に基づくエラーメカニズムを模擬できる機能を加えること、③ストレスや感情などを含めてより人間らしいふるまいを模擬できるようにすること、④学習機能を加えて、知識べースの構築を効率化することなどが求められる。さらに、オペレータ間の協調や役割分担を含めたチームとしての行動をシミュレーションするためのヒューマン・ヒューマン・インタフェースモデルを完成し、最終的に運転チーム行動シミュレーションモデルとして完成する必要がある。, 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (論文) 学位授与年月日:平成7年1月31日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {原子力プラント運転操作に係わる人間特性分析・評価手法の開発と適用}, year = {1995} }