@phdthesis{oai:nagoya.repo.nii.ac.jp:00009733, author = {的場, 哲}, month = {Mar}, note = {本研究では,鉄鋼製造プロセス,とりわけ鋼板製造プロセスを対象に,ひずみにして数%以下の微小塑性変形に起因する諸問題を,塑性力学的な見方で研究し,より一般的な解決策を見いだそうとした.研究の対象とした数%以下の微小ひずみは,圧延加工のように寸法が変わる大変形ではないが,鋼板では波や反りの発生として顕著な影響を及ぼすひずみ量である.特に反りについては,弾性ひずみ程度の大きさでも問題となる.これらの形状不良は,鋼板の使用者にとっても,製造者にとっても自動化,高速化の妨げとなる.問題解決のため,現状の矯正技術の動向を概観し,それに基づいて,ローラレベラとテンションレベラにおける形状矯正技術の研究をおこない,続いて,その応用編としてパイプの曲がり矯正用レベラの研究をおこなった.そして,これらの研究で得られた知見を基に,薄鋼板製造用の連続化プロセシングラインにおける微小変形,微小ひずみに起因する各種の問題の解析とその解決策を検討した.なお,本論文は7章で構成している.以下に各章毎の要旨をまとめる.第1章では形状矯正の技術動向を概説し,本研究の意義,必要性を明確にした.第2章はローラレベラにおける形状矯正の研究結果である.矯正能力の不足,条切り後の板反りなどの不具合現象の多くは,板幅方向の矯正曲率が不均一なため発生する.矯正曲率を必要量確保し,且つ,幅方向均一な曲率を得るため,ロール位置と曲率,矯正荷重とロールたわみなどの関係を研究した.形状不良のある板を幅方向に平面を保って曲げ矯正すれば,板幅全体の応力の釣り合いから付加的な長手方向応力が発生し,このために板が伸び縮みし,局部ひずみに起因する形状不良が矯正できると考えられる.解析的な考察から,矯正後の板の急峻度は加工曲率の平方根に反比例する,つまり曲率を大にすると大きい形状不良まで矯正できることが導かれた.矯正中の板のひずみと矯正荷重を実測し,矯正条件と荷重,曲率など関係を求め,実験回帰式を作成した.また,ロール毎の矯正荷重と曲率の関係からロールたわみ量を推定した.板曲率とロール位置の関係は,板が弾性変形するとして曲率を計算した値に,ほぼ等しい.レベラのロール間距離をlとし,両隣ロールに対する中央口ールの押し込み量をδとすると,中央口ール部の板曲率kは,k= 6δ/l^2と表される.ロール位置と曲率の関係がこのように簡単な式で求められるので,レベラのミルスプリング定数を考慮し,レベラの設定条件から,矯正荷重,曲率など計算する数式モデルを試作してみた.ミルスプリング定数の信頼性が高まれば,実用に耐える数値モデルが作れる.板厚の大きい板の矯正では,レベラロールに過大トルクがかかり,レベラ能力が発揮できなくなるトルク循環と呼ばれる現象が発生する.この原因が,板とロールの微小な速度差に起因して発生していると考え,その大きさを求めるモデル式を見出した.付加的トルクは,板厚,摩擦係数に比例し,ロール間隔に反比例し,最大曲率係数にもほぼ比例する.レベラ条件にもよるが,10mmの板のローラ矯正では,材料の変形仕事量から求めたトルクの十倍程度以上の付加的トルクが発生すると推定される.第3章に,極薄鋼板の形状矯正に用いられるテンョンレベラの技術について,理論的および実験的な検討結果をまとめた.応力とひずみの弾塑性解析をTrescaの降伏条件のもとでおこなった.Trescaの降伏条件では,幅方向応力が長手方向応力の釣り合い式に含まれないため,応力計算が方向別に分離して計算できる.この結果,Misesの降伏条件を用いた場合に比べて収束計算が大幅に簡略化できる.降伏条件の違いを1本ロール曲げや2本ロールでの曲げ・逆曲げを例に,実験と数値計算で比較し,ほぼ両者が一致することを確かめた.ここで求めたTrescaの降伏条件による数値計算プログラムを連続化プロセシングラインでの幅反り問題の解析手段として用いた.第4章では,パイプ,すなわち鋼管の曲かりをローラレベラ方式の繰り返し曲げで矯正する方法を検討した.板材のローラレベラ矯正との本質的な差はないが,管が中空であるために加工曲率を大にすると,薄肉,高強度の管では真円度が劣化しやすいことを考慮する必要がある.この条件を除くと,レベラ方式の矯正では初期曲がりなどの外乱の影響が少ない安定した曲がり矯正が可能となる.管の外径を絞りながら曲げる絞り曲げ法を,管の円周方向に圧縮応力が発生し,その応力で管断面の長手方向引張側か降伏しやすくなると仮定して理論モデル化した.絞り曲げでは,小さい曲げモーメントで降伏し,ロール位置のわずかの違いで大きく曲率が変化するので,繰り返し曲げは不都合となり,従来どうりのパスラインを真っ直ぐに保っておこなうタークスヘッド矯正法(1回の絞り曲げ)が適している.レベラ方式の繰り返し曲げでのロールの設定位置と管の曲率の関係を,管内面にひずみゲージを貼りつけた実験をおこない求めた.結果は,板のローラレベラで求めた曲率kとロール押し込み量δの関係式, k= 6δ/l^2 と同じであった.このことは,レベリング中の管は,弾性的にロール間を通過するとして曲率を求めるのと同等となり,数学的には3次の自然スプライン函数として解析的に与えられる. 管のロール間軌跡が得られたので,管の材質,肉厚,外径,ロール設定位置などにばらつきがあるとして,レベラ通過後の管の残留曲率のばらつきを解析した.ロール設定位置と材料の降伏応力のばらつきが,残留曲率に大きく影響を与える.また,5スタンドよりも7スタンドの矯正機のほうがばらつきが小さくなる.第5章として,薄鋼板の代表的な連続プロセシングラインである連続焼鈍ラインでの微小ひずみ問題を解析した.連続焼鈍ラインは多数のロールからなる巨大な設備で,高温度で軟質化した板がロールに接触する影響は無視できない.第5.1項として炉内で発生するヒートバックルと呼ばれる絞り込み疵について検討した.この疵は,板の蛇行防止用にロールにつけている凸クラウンが主原因で発生すると考えられた.疵の発生モデルとして,凸クラウンロールの回転により幅中央部が圧縮されて板にしわが発生する段階と,そのしわがロール上に気泡のように取り残されて塑性変形し,疵となる段階から成り立っていると仮定し,疵発生の限界張力を定式化した.疵は張力が高くなると発生する.その限界張力げσ_t-crは,[(板厚×降伏応力)/(クラウンのテーパ角度×摩擦係数×テーパ部の板幅)]の二乗に比例すると求められた.例えば板厚が薄くなると,発生限界張力が小さくなり通板が困難になることが示される.この関係式を用いると,薄物・広幅の材料の通板には,クラウンのテーパ角度をどのように変えれば良いかなどの指針が得られる.第5.2項では,連続焼鈍ラインのロールと通板張力か,材質にどう影響するかを検討した.高温で軟質化した板にとって連続焼鈍ラインは一種のテンションレベラとして働く.ライン通板で板に入る塑性ひずみをテンションレベラの理論を用いて求め,そのひずみ量が板の材質,特に板の延性に及ぼす影響は実験で求めた.その結果,高い張力でラインを通すとひずみがロール毎に累積する条件となり.材質劣化が大きくなること,ロール径と板の降伏点で決まる特定の張力以下の低張力で通板すると,事実上無ひずみ状態で焼鈍ができることが見出された.この結果は,透過電子顕微鏡による転位観察で裏付けられた.材質劣化代(板の引張試験で求めた全伸びの劣化代)は,炉内で導入されるひずみ1%当たり,全伸びで3%程度と推定された.第6章では,プロセシングラインのロール曲げの影響を解析した.第6.1項では,テンションレベラの理論を用いて,横型の電気めっきラインで板幅方向に反りか発生する問題の原因と対策を検討した.めっき電流を板に流すための通電ロールに板が押しつけられて,板か塑性変形して長手反りとなり,それがライン上で幅反りとして現れている.板は通電ロールとゴムロールの間に挟まれている.このゴムロールと板の接触幅状態を解析し,曲げ変形が塑性変形域に入らない条件を検討した.通電ロールを弾性曲げに近づくように大径化するのが最も確実な方法であるが,大径にできない場合は,ゴム変形で発生する曲げモーメントが,塑性曲げモーメントを越えないように,ゴム変形が少なくなるような対策を取ることが,有効な手段となる.第6.2項では,調質圧延前の上下降伏点のある鋼板をロール曲げしたときに発生する腰折れ現象を塑性力学的な観点から検討した.曲率と曲げモートメント線図における飛び跳ね現象の考察から,腰折れは,板の上降伏点で決まる曲げモーメントが下降伏点から求められる曲げモーメントMeの1.5倍以上になるときに強く現れると考えられる.この上降伏点が高くなる条件は,曲げ変形のようにノッチ効果の少ない加工でいつも満たされていると考えられる. これまでの操業経験では,降伏曲率の2倍以上といわれていたが,本研究の発生限界のほうが,小さい曲率となり,ロール径に換算するとより大径側で腰折れが発生することになる.腰折れの発生ピッチを曲げモーメントの飛び跳ね現象をモデル化して求めてみた.ロール径が小さいほど,張力が大きいほどピッチが細かくなるなど,実験結果を定性的に説明する式が得られた.第7章は総括として論文の要旨をまとめている.また,付録として鋼板形状問題に関する共通的技術について若干の検討を記述した.付録Aは,極薄鋼板の形状,特に反り測定法の標準化を目的とした検討結果である.操業現場で用いられている吊し反りや,小切りしたときの板端の跳ね上がり高さなどの反り指標は測定が容易で,操業管理的には十分な精度を持っているが,試験片寸法,板厚が異なる指標は直接的に比較できない,また,幅反りと長手反りが干渉するなどの問題点を含んでいる.これらの反り指標に,材料力学の弾性曲げ理論を適用することで,板を切り出し無拘束にしたときの曲率として換算できるようにした.理論解析結果と,実験結果の一致は極めてよかった.付録Bには,研究対象の薄鋼板の板厚内残留応力分布を参考資料として記述した.微小変形,特に板反りを扱う場合には,板厚内残留応力の有無が大きく影響する.ぶりき系極薄鋼板の調質圧延後の板表面には,材料の降伏応力の半分程度の圧縮の残留応力があり,圧縮側の変形に対して降伏し易くなっている.このため,残留応力を考えないと弾性曲げとなるロールでも巻き癖がつくことになり,形状不良をまねく原因の一つになっている.これらのデータは,形状問題を扱うための基礎情報として役立つと考えられる., 名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (課程) 学位授与年月日:平成7年3月27日}, school = {名古屋大学, Nagoya University}, title = {鉄鋼製造プロセスにおける微小塑性変形とそれに起因する諸問題の研究}, year = {1995} }